2020 Fiscal Year Research-status Report
A Critical Study of Anti-natalist Philosophy in Terms of Birth-Affirmation
Project/Area Number |
20K00042
|
Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
森岡 正博 早稲田大学, 人間科学学術院, 教授 (80192780)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | 誕生肯定 / 反出生主義 / 生命の哲学 / 生命倫理 |
Outline of Annual Research Achievements |
反出生主義の研究を順調に進めることができた。まず、単著として『生まれてこないほうが良かったのか?』(筑摩選書)を刊行した。この本では、反出生主義を誕生否定と出産否定から成ると定義し、その源流を古代ギリシアと古代インドに探った。古代ギリシアではテオグニスらの詩人たちが誕生否定的な思想を歌い、後のヨーロッパ思想に大きな影響を与えた。古代インドではウパニシャッドや原始仏教において輪廻における再生からの離脱という意味での反出生主義が提唱され、実践された。19世紀のショーペンハウアーはこれら二つの潮流を合体させ、われわれは存在しないほうが良かったという独自の反出生主義を提唱した。彼はまたすべての人間が子どもを産まないことを肯定的に捉えていた。 20世紀になって人類の絶滅を提唱する思想が登場し、21世紀に反出生主義という言葉が登場した。本書ではこれらの流れを詳述したのち、今日の反出生主義の提唱者の一人であるベネターの誕生害悪論を「存在」と「生成」の観点から哲学的に検討し、その論理が成立していないことを示した。また、私がかねてより提唱している「誕生肯定」の概念をさらに一歩進めて検討した。 同書刊行後に、インターネットを中心とした日本の反出生主義者たちと意見交換を行ない、現代の反出生主義の考えを収集した。また見落としていた文献を読み、同書を補う論文として「反出生主義とは何か―その定義とカテゴリー」を刊行した。この論文で、反出生主義を「ギリシア型の原―反出生主義」「インド型の原―反出生主義」「20世紀以降の反生殖主義」に分類し、「反出生主義とは、「すべての人間あるいはすべての感覚ある存在は生まれるべきではない」という思想である」と定義した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
研究が順調に進み、反出生主義に関する単著1冊、論文2本を刊行することができた。当初の計画以上に進展したと考えられる。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後の研究は以下のように進める予定である。まず第1年度で達成できた反出生主義の詳細な研究を英語に翻訳し、海外のオンライン学会等で発表していく。発表学会としては、バーミンガム大学で開催される国際宗教哲学会、プレトリア大学でオンライン開催される人生の意味の哲学国際会議などを予定している。テーマとしては、反出生主義の誕生否定の精神が一種の宗教的な境地と考えられるのではないかという点、そしてハンス・ヨーナスの人類存続命法論と反出生主義の関係はどのようになっているのかという点を考えている。また、誕生肯定の概念を「可能世界解釈」と「反―反出生主義解釈」の両面から考察してきたが、その論点を人生の意味の哲学におけるナラティヴ解釈と照らし合わせて、どのような差異があるのかを研究する。また、反出生主義の国際的運動体として反出生主義インターナショナルがあるが、彼らと接点を持つことができたので、国際的な運動体としての反出生主義を研究の視野に入れていきたい。研究成果は適宜論文の形で刊行し、国際的な場面で発言していきたいと考えている。
|
Causes of Carryover |
当初計画では英国バーミンガム大学で開催される人生の意味の哲学国際会議に現地で参加する予定であったが、コロナ状況が悪化し、渡英することができなくなった。そのための渡航費が未使用のまま終わった。当該学会はオンラインで開催され、学会参加そのものは行なうことができた。
|
Research Products
(7 results)