2020 Fiscal Year Research-status Report
幕末維新期の陽明学者吉村秋陽・吉村斐山の未刊文書の翻刻と研究
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20K00066
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Research Institution | Kwassui Women's College |
Principal Investigator |
荒木 龍太郎 活水女子大学, 国際文化学部, 非常勤 (90124164)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
藤井 倫明 九州大学, 人文科学研究院, 准教授 (40867454)
関 幹雄 都城工業高等専門学校, 一般科目文科, 助教 (00817900)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 吉村秋陽 / 吉村斐山 / 佐藤一斎 / 幕末維新期日本陽明学 / 王陽明 / 劉念台 / 大橋訥庵 / 格物致知 |
Outline of Annual Research Achievements |
全体:計画では2年度はPDFで収集した資料の「読我書樓長暦」「読我書樓文草」などの未刊文書を中心に翻刻、注釈作業を開始した。個別の実績は以下の通りである。 (1)幕末期陽明学者吉村秋陽の行状の紹介と解説ー明治以降、嗣子の斐山が書いた秋陽の基本的な伝記資料の注釈を行った。明治以降、これに依拠して吉村秋陽の研究が進められてきた。その正確な理解と確認は必須の事項である。 (2)「読我書樓文草」の翻刻と注釈ー秋陽の思想と学術の究明は、これまで秋陽の壮年から晩年までの『読我書楼遺稿』(明治15年刊)を根本資料としてきた。しかしこれはそのもとの原稿「読我書樓文草」の三分の一でしかなく、全体を正確に究明するにはすべてを翻刻する必要がある。令和2年度はその35%の翻刻と注釈を行った。 (3)「読我書樓長暦」翻刻(二)ー天保元年(34才)の日記の翻刻である。佐藤一斎に入門し陽明学者としての土台を形成する時期の学修の状況、学術交流の実際を確定した。例えば4月25日に一斎に入門し、その翌日から『大学』を読み、『伝習録』の講義を受け、『明史』を読み、『近思続録』『近思別録』『二程全書』を一斎の指示で読んでいる。「一斎ー秋陽」と継承される幕末陽明学の系譜を確認できる重要な記録である。 (4)大橋訥庵との格物致知論争関連の資料を検討し、秋陽の王陽明、劉念台両思想に対する理解と認識を考察した。秋陽は同期の陽明学者が念台思想を支持した中で陽明思想を支持する立場からの精緻な思索を行った。これは中国の明末清初期にも見られないものであり、また高い水準の考察は今日においても貴重である。これを「一斎ー秋陽の継承関係」の中で考察することにより、これまで看過されてきた日本陽明学の特性、幕末維新期陽明学の脈絡の方向を見いだした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究の中核となる「読我書樓文草」の翻刻と注釈は35%終えている。しかしコロナ感染拡大による移動制限のため、研究会・打ち合わせ、図書館の利用が予定通りに実施できず遅れが出ている。ことに翻刻は、合同で検討するのが効率的であるので他の「読我書樓長暦」の翻刻などにも支障を来している。遠隔による研究会・打ち合わせで、その代替を試みているが所期のレベルには到っていない。これらが理由であると認識している。
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Strategy for Future Research Activity |
・遠隔による研究会・打ち合わせの回数を増やし、内容を充実させ、また「秋陽叟事歴之略記」(詳細な事暦記録)、「斐山日暦」の解読を前倒しして取りかかり全体像の把握を推進させる。 ・「佐藤一斎ー吉村秋陽・嗣子の斐山ー秋陽の弟子の東沢瀉・嗣子の東敬治」を系譜として把握し、幕末維新期から明治以降の日本陽明学の様相・動向の観点からも考察をすすめる。 ・吉村斐山、東沢瀉、東敬治へと視野を広げるにあたり、陽明学研究者であった高瀬武次郎の「高瀬文庫」(九州大学附属図書館蔵)の調査を行う。
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Causes of Carryover |
コロナ感染拡大による移動制限のため、研究会・打ち合わせ、図書館の利用のための2020年度の出張を次年度に計画したためである。新たにリモートによる研究環境を整備するための費用を確保するため、書籍、資料の到着が遅れているためである。
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