2021 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
20K00094
|
Research Institution | Yokohama National University |
Principal Investigator |
榑沼 範久 横浜国立大学, 大学院都市イノベーション研究院, 教授 (20313166)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
|
Keywords | 下村寅太郎 / 世界史 / 哲学 / 京都学派 / 思想史 |
Outline of Annual Research Achievements |
京都学派の一翼を成す下村寅太郎(1902-1995)が研究談話会「プリムツァール会」の録音テープに残した「潜在的著作」を読み解くための準備的作業として、研究代表者の榑沼範久は論考「下村寅太郎の哲学に向かう」(『常盤台人間文化論叢』、横浜国立大学都市イノベーション研究院、第8巻、第1号、2022年3月、131-142頁)を研究成果として発表した。この論考は下村の「多様における統一」「帰趨する中心へ」の二節から成り、旧友・今西錦司(1902-1992)から下村に宛てられた1942年の手紙(京都学派の「世界史の哲学」に向けられた辛辣な批判)も紹介しながら、下村の最初の単著『ライプニッツ』(1938)から既に引かれていた下村哲学の核心(転換期の世界史の位相に自らを作られつつ、その危機/岐路を生き、別の/次の世界史を作るための哲学)を描出した。この作業と並行するかたちで、研究代表者は「プリムツァール会」の録音テープの幾つかを所持する常連出席者と連絡を取り続けているが、新型コロナウィルス感染症の対策が必要な状況が続くなか、思うように接触が出来ない状況が続いている。しかしながら、好機をつかまえて改めてお話を伺うとともに、テープ等の資料をめぐる打ち合わせを進めることが出来た。様々な状況を注視しながら現存する録音テープの確定とデジタルデータに整理する作業を進めていきたい。なお、下村は晩年に書いた「著作遍路」のなか、プリムツァール会では「哲学的テーマ」に限らず、「飢餓の世界史、精神史としての戦争、科学革命、現代の終末論、都市の世界史、等々の類」を語ったと明かしているが、疫病と戦争の回帰を含め、今のわれわれの世界史の位相と共鳴する位相を、引き続き下村哲学から抽出していく所存である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
下村寅太郎の哲学を現在のわれわれの状況も背景にした危機の世界史や都市の世界史に照射して展開する複数の論考を継続的に発表することによって、下村が「プリムツァール会」録音テープに残した「潜在的著作」を読み解くための準備は、積極的に展開している。そして、「プリムツァール会」の常連出席者と連絡を取り、いくつかの録音テープの所在を改めて確認することも出来た。ただ、新型コロナウイルス感染症の対策が必要な状況のなか、残念ながら2020-2021年度は直接にお会いすることを回避した次第である(なお、電子メールやPCはご使用になられていない)。しかしながら、好機をつかまえ改めて交渉をするなかで、テープ等の資料に関して進展もあった。来年度以後、予定していた研究計画を再定位しつつ進めていく予定である。
|
Strategy for Future Research Activity |
新型コロナウイルス感染症の収束がまだ見えないなかではあるが、複数回のワクチン接種も進んでいる状況のため、来年度以降は資料に実際に基づいて作業を促進していく。来年度以後は、京都大学文学部(日本哲学史専修)に逗子の下村家から寄託された資料群にも同時に当たる事にしたい。京都学派アーカイヴ<https://www.kyoto-gakuha.org/index.php> によれば、「下村自身が書いた原稿などは、貴重史料として『文学研究科図書館』の貴重書室に収められたが、それ以外のものは現在、日本哲学史専修の上原麻有子主任教授の研究室に保管されている」という。上記のHPの写真には録音テープも写されているため、これが下村寅太郎の「潜在的著作」の幾つかである可能性がある。諸事情により、この資料群の調査を行う時期が遅れてしまったのは痛恨の限りであるが、来年度以降はこの資料群にも同時に当たることで、本研究を予定の航路で推進する方策である。
|
Research Products
(1 results)