2021 Fiscal Year Research-status Report
『葉隠』の武士道における忠誠の再検討―「誠実」をめぐる日本倫理思想史学的研究
Project/Area Number |
20K00100
|
Research Institution | Yamaguchi University |
Principal Investigator |
栗原 剛 山口大学, 人文学部, 准教授 (50422358)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | 葉隠 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、『葉隠』において求められた忠誠の具体相、およびそこにある倫理思想的問題点を明らかにすべく、本文読解の成果を論文として発表した。その概要は以下の通りである。 『葉隠』の武士道において、有事の「武篇」と平時の「奉公」とは、いかにして統一されるか。「武篇」における死の覚悟と実践を一つに貫く「無分別」なありようを、「奉公」にもあてはめることは、果たして可能か。両者の矛盾は、まずもって実践の側にある。「武篇」と「奉公」の実践は、「死」「生」という基調の色合いにおいて、また時間的な長さと質において、大きく異なるからである。 この矛盾は「奉公」の内部において、主君のために死する覚悟が、逆に長きにわたる生の実践を疵なきものにする、という齟齬をもたらすかに見える。しかし「奉公」における死の覚悟は、主君から浪人切腹を命ぜられるのが今日でも将来でもあり得る、という意味で、実はこれも、時間的に大きな振幅をもつ。また「奉公」における実践は、どれだけ長く継続されようとも、理念的には戦闘の果てに死する、という道のりを意味した。「奉公」における覚悟と実践の間に齟齬はなく、さらにその全体は、「武篇」における理想的な戦闘のあり方と通底する。「武篇」と「奉公」の違いは、〝戦闘〟がもつ時間的な射程とその質のみにあった。 しかし、まさにその時間的な射程の長さゆえ、平時の「奉公」における武勇の実践は、有事の「武篇」にない矛盾をなお、内に抱えている。「奉公」の実践は、入念な事前の準備と事後の反省とを、不可欠な前提とする。当座の働きは、両者に挟まれてはじめて継続され、磨かれもしたのである。すぐれて反省的で持続的な吟味と、それを「無分別」に棄て去り、超越した地点ではじめて立ち現れる当座の実践は、いかにしてつながるのか。この点をさらに追究することが、今後の課題である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
『葉隠』における忠誠の内実に踏み込む考察を、公表することが出来たため。
|
Strategy for Future Research Activity |
『葉隠』に説かれた忠誠を、「奉公」人と主君(もしくは主家)との関係性として、より広い倫理的な問題系の中で考察していく必要がある。そのためにも、『葉隠』研究を手がける他の研究者と知見を共有する手段を、目下準備中である。
|
Causes of Carryover |
新型コロナウィルス感染状況により、首都圏への出張がかなわず、本務地から動けないままの研究を余儀なくされたため。状況が改善しない場合は、物品費としての使用を計画している。
|
Research Products
(1 results)