2020 Fiscal Year Research-status Report
Revisiting Eta Harich-Schneider, first Cembalist in Japan and pioneering Scholar on Japanese traditional musics
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20K00135
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
高久 暁 日本大学, 芸術学部, 教授 (20328769)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | エタ・ハーリヒ=シュナイダー / 日本の古楽演奏史 / 日本のチェンバロ演奏史 / 日本の外来音楽家の活動史 / 日本の西洋音楽史 / 外国人による日本音楽研究 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度の研究は新型コロナウイルス感染症(Covid-19)の日本国内および世界的な流行を受けて、計画の大幅な変更を迫られた。研究は文献の収集と分析、従来の研究から得ていた諸データの解析など、移動を伴わずに行うことのできる作業に専念せざるを得なくなった。実施した研究と得られた結果は次の通りである。 ①エタ・ハーリヒ=シュナイダー(以下EHSと略記)が日本語で発表した文献の網羅的なリストを作成した。これは大きくi)ドイツ音楽やドイツの音楽文化に関する論説、ii)演奏会での演目に関する談話やプログラムノート、iii)音楽事典の項目の執筆、iv)書籍、v)その他の雑記的な文章、の5つに分けることができる。 ②EHSが第1次日本滞在期(1941~49)に東京の自宅で行ったコンサート(自宅演奏会)の聴き手の分析を行った。EHSは1943年に自宅演奏会の聴き手の「不完全なリスト」を作成、1945年夏に疎開先の軽井沢で行ったコンサートでも聴き手に氏名を記させており、1946年以降に東京・赤坂の自宅で開催した演奏会や1948年にNHKラジオで行ったヒンデミット《ルードゥス・トナリス》の放送日本初演の際にも、聴き手や立ち会った人物の氏名を克明に記している。これらの聴き手の素性をできる限り明らかにする作業を行った。作業は現在も継続中である。 ③EHSは1941年から1945年にかけて日独文化協会の支援を得て各種の活動を行っていたため、EHSの来日以前に遡って東京及び京都の日独文化協会の活動歴と刊行物を調査した。また、日独文化協会の活動と機関誌『日獨文化』に関する研究を参照した。さらに1933年から1945年までの日本でのドイツ・音楽を含むドイツ文化への見方を知るため、『新獨逸國家大系』以下の同時期に刊行された基本的文献にアクセスし、日本でのEHSの音楽活動の受容の「素地」についての理解を深めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナウイルス(Covid-19)の世界的流行が当初の見込みをはるかに超えた規模と期間に及んでいるため、2020年度は国外での研究調査は不可能となり、国内での調査も困難となった。このことから、当初の研究計画の大幅な変更を余儀なくさせられた。この変更は研究者自身の原因によるものではないが、どのような理由であれ研究自体は「遅れている」と評価せざるを得ない。 しかし資料収集等の作業に重点を置いた結果、EHSと親交を持ち、1938年から1945年まで東京音楽学校で作曲・合唱他を教えたヘルムート・フェルマーHelmut Fellmerの作曲作品の自筆譜やノートを含む資料を思いがけずも入手することができた。フェルマーは終戦後1947年まで日本に滞在して音楽活動を行ったが、東京音楽学校の音楽会での指揮や戦後に活躍することになった後進の作曲家を作曲教育者として育成するなど、文献や記録には頻繁に登場するものの、その活動の実態については従来ほとんど研究がない。またフェルマーの活動を同時期のEHSの活動と対比的にとらえることも可能であると考えられる。フェルマーについての研究はそれ自体が独立して行われる必要があるが、当研究からいわばフェルマー研究を推進させる手掛かりが得られたとも言える。これは「学術研究においては当初予期しないことが起こることがある」に該当すると考えられる。 以上を踏まえ、研究の進捗状況を「やや遅れている」と判断するものである。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年5月初旬の時点で、新型コロナウイルス感染症(Covid-19)の日本国内および世界的な流行が収束の兆しを見せていないため、今後の研究計画にも抜本的な改変が迫られていると言わざるを得ない。今後の研究にあたっては、当初の研究計画を尊重しつつ、状況に応じた柔軟な対応をも厭わずに臨む所存である。2021年度以降の研究の方策と2021年度の研究内容については、以下の7項目を考えている。 ①国外での研究調査は最終年度に重点的に実施する。状況によっては、研究期間の延長も視野に入れる。②国内の実地調査を先に実施する。研究計画では鍵盤楽器奏者としてEHSが活動した東京以外の場所(静岡、仙台、軽井沢、新潟、京都、神戸、大阪他)と日本音楽研究者としてフィールド調査を行った場所(九州他)とを別々に調査する予定であったが、これらを一括して調査を行う。③EHSの演奏会の聴き手の調査を継続して行う。④EHSの演奏会の紹介記事や批評記事を収集する。⑤日本で閲覧できるGHQ文書の中にEHSに関連する文書が存在するかどうかを調査する。⑥EHSの弟子やEHSの演奏を聞いた人物についてインタビュー調査を行う。調査にあたっては、ウェブ会議アプリケーションの積極的な活用を図る。⑦太平洋戦争期から連合国軍占領期にかけての日本でのドイツ人の動態について、文献や統計資料を用いて理解を深めるようにする。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症(Covid-19)の日本国内および世界的流行により、当初の研究計画で予定していた国外における研究調査、さらには国内での研究調査を実施することができなくなったため、旅費を使用することができなかった。2021年度は感染症への対策を十分に行った上で国内での研究調査を行い、国外での研究調査は最終年度に集約的に実施するようにしたい。それも不可能となった場合には、研究期間を延長することを視野に入れている。
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Research Products
(2 results)