2021 Fiscal Year Research-status Report
Revisiting Eta Harich-Schneider, first Cembalist in Japan and pioneering Scholar on Japanese traditional musics
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20K00135
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
高久 暁 日本大学, 芸術学部, 教授 (20328769)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | エタ・ハーリヒ=シュナイダー / チェンバロ演奏史 / 日本古楽演奏史 / 近代日本音楽史 / 日本における外国人演奏家の活動 / 山田耕筰 |
Outline of Annual Research Achievements |
新型コロナウイルス感染症の世界的流行のため、昨年度に引き続いて国外調査を行うことができなかったが、国内での資料調査や現地調査によって、エタ=ハーリヒ・シュナイダー(以下EHS)が日本における長期滞在を決意した1941年10月以降行うようになった東京以外の場所での演奏会の成立事情や目的の背景について確かな推測が可能となった。1941年10月11日と12日に新潟で行われた演奏会は、日本におけるEHSの音楽活動の積極的な支援者の一人だった山田耕筰が、新潟で特色ある音楽教育活動を行っていた齋藤正直に依頼することで実現したと考えられる。またEHSは1941年7月5日に神戸で行った演奏会で当時神戸にあったドイツ領事館の領事アウグスト・バルザーと知り合ったと考えられるが、1941年10月以降ゾルゲ事件によって東京のドイツ大使館関係者との間に「緊張状態」が生じたこと、またやはり山田耕筰の斡旋で同年9月下旬以降相愛女子専門学校のピアノ教授の職を得て関西方面に定期的に赴く機会を得た等の理由から、バルザーがEHSの日本居住のドイツ側の相談役として重要な役割を担っていたことが判明した。EHSはバルザーの自宅で1941年と42年に私的な演奏会を行い、また42年から44年まで毎年神戸の教会やドイツ人関連組織で演奏会を開催し、さらに1945年11月1日には終戦後最初の演奏会を疎開先の軽井沢から神戸まで赴いて行ったが、これらの演奏会は、その開催意図にEHSが自身の生活状況についてバルザーと会って相談することも含まれていたものと思われる。また新潟や神戸の地方紙や全国紙の地方版の調査を行い、EHSの演奏会を扱った新聞記事を収集できた。さらに『日本チェンバロ協会』の年報に1941年から49年までのEHSの演奏活動に関する2部構成の論文の第1部を投稿、併せて今後の国外調査の準備のために諸データの見直しを行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナウイルス感染症の世界的流行により、昨年度に続いて2021年度も当研究の主要部分をなす国外での資料調査を実施できなかった。その分国内での調査の実施、内外の文献収集とその分析、さらに必要とされる調査や研究の抽出に注力したが、限界があることは否めなかった。以上の理由から「やや遅れている」と評価せざるを得ないものである。
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Strategy for Future Research Activity |
①当初の研究目的であった国外、特にベルリンにおけるEHSのアーカイヴでの調査を優先的に行い、当初の研究計画に少しでも近づけるように努力する。②太平洋戦争期にEHSが東京以外の地方で行った演奏会について、引き続き現地調査を行う。③地方紙や地方版における記事は演奏会の事前告知等を目的とすることが予想されるため、EHSの演奏会の所感を記した記事は存在しないと考えられる。そのため、演奏会を聴いた人物の日記等の資料やEHSと密接に関わった人物が残した文献を地道に探索する必要がある。④1945年6月以降にEHSを含む東京に住んでいた外国人が疎開した軽井沢での住環境や疎開状況について、諸文献を参考にしながら実地踏査を行う。⑤1945年から49年にかけてEHSが日本で入手した楽譜の入手経路を調べるため、占領期に楽譜・楽書の輸入に携わった人物から聞き取り調査を行う。⑥1945年から49年までにEHSがGHQに提出した文書を抽出して検討する。⑦1949年以降のアメリカでのEHSの活動状況について、アメリカの公文書館に残されている資料を調査する。⑧アメリカ議会図書館にあるワンダ・ランドフスカのアーカイヴにアクセスし、ランドフスカがEHSに行ったレッスンの記録を調査する。この主題についてはすでに研究を行った研究者がいるため、その研究者から助言を得ながら調査を実施するようにする。⑩1949年にEHSがアメリカに渡航した際に後見人の役目を果たしたチェンバロ奏者、ラルフ・カークパトリックとEHSとの関係を調査する。⑩『日本チェンバロ協会』へ論文を寄稿し、さらにEHSの著述リストとその解題を主題とする論文を執筆して適切な雑誌に投稿する。③と⑤は2021年度の研究成果から必要となった新たな研究項目である。 以上、今後研究すべき項目は多いと言わざるを得ないため、研究期間の延長を視野に入れて考えるようにしたい。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症の世界的流行の影響により、前年度に引き続いて2021年度も国外調査を行うことができなかった。そのため、主に国外調査に計上した旅費の使用を控えざるを得なかった。また、インタビュー等も実施しづらい状況にあった。これらの理由から次年度使用額が発生した。次年度には、これまで行うことのできなかった国外調査や聞き取り調査を積極的に行う予定である。
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Research Products
(2 results)