2023 Fiscal Year Annual Research Report
近世中後期上方の読本制作における史書・地誌の影響に関する研究
Project/Area Number |
20K00285
|
Research Institution | Ochanomizu University |
Principal Investigator |
藤川 玲満 お茶の水女子大学, 基幹研究院, 准教授 (20509674)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | 日本文学 / 近世文学 / 読本 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、近世中後期の上方における読本制作の特質とその事情について、文壇・学問の潮流といった時代環境と戯作との関連を解明する目的のもとに、作者の経歴・著述活動も視野に入れながら、地誌・歴史の領域との影響関係に着目して調査研究を行ってきた。そして、作品本文の形成の実態調査に基づく結果として、政治・社会・文化史の主題や素材に対する戯作者の態度や関心と、それらを小説(創作)で表現した手法・技巧が明らかになってきた。そうしたなかで、本年度は、とくに文禄・慶長の役を描く『絵本朝鮮軍記』(寛政12年刊)の調査研究からの継続的展開として歴史事項の主題をめぐる読本の制作事情を複眼的に捉えること、また、戯作者の活動における歴史素材と地誌・読本の関係の考察を追補することを目的に、南北朝の動乱を対象として、このことに関わる地誌(名所図会)の叙述と、読本『絵本楠公記』(初編は山田得翁斎作、2編・3編は速水春暁斎作、寛政12年~文化6年刊)の形成の実態についての調査研究を行った。結果として、『河内名所図会』(秋里籬島作、享和元年刊)をはじめとする名所図会の南北朝の古戦場や諸将の叙述には、旧記への依拠における傾向や人物への着眼の志向、諸士をめぐる論評の特質が捉えられた。『絵本楠公記』については、先行研究に指摘される典拠に関して記事の加除の検討を行い、叙述・編成における取り合わせの志向や筋の打ち出し方の手法と意味が捉えられた。これらの成果には、読本作者による当代に至る研究史の受容と、創作における認識の投影を捉え得た意義があると考えている。
|