2020 Fiscal Year Research-status Report
東北地方諸藩の歌枕(俳枕を含む)の名所化とその表現史との関係を解明する新研究
Project/Area Number |
20K00286
|
Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
錦 仁 新潟大学, 人文社会科学系, 名誉教授 (00125733)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山本 章博 上智大学, 文学部, 准教授 (70733955)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | 歌枕 / 歌枕の名所づくり / 藩主の和歌活動 / 藩主の領内巡覧 / 幕府派遣の巡見使 / 巡見使の旅日記 / 中世・近世の歌枕集 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、従来の和歌研究を修正し、和歌の実態に即したリアルな和歌研究を目指す。例えば、歌枕の研究は現在も盛んに行われているが、そのほとんどは都の著名歌人を対象とし、当該の歌枕を詠んだ歌を史的に並べて、歌の詠み方がどのように変化してきたか、美意識の変容は見られるかなどを明らかにする表現史研究である。 こうした観点から行う和歌研究は、例えばなにゆえに「古今集」には東北地方の歌枕が仮名序もふくめて数多く採られている理由、また、平安後期以降、とくに中世から近世にかけて、東北地方の歌枕を詠む歌が増加してくるのか、その理由を明らかにすることができなくなってしまう。というより、無視ししてしまう。 また、地方の戦国大名や近世の諸藩において、この歌枕は我が領内のここである、この古歌は我が領内のこの風景を詠んだのたとみずから決定し、全国に喧伝するようになるのは、どういう理由によるものかを考えたりしなくなってしまう。都中心の和歌観により地方でも和歌が盛んであったことが研究視野に入らなくなってしまう。 本研究は、こうして和歌研究の現況を批判し、かつ超克するために、東北地方諸藩における歌枕の名所設定の動きに注目する。戦国大名や近世の藩主が臣下とともに、領内に名所を造るべく、どのような活動をしたのかを明らかにする。 こうした新しい観点と方法によって論文を書き、それらの成果とこれまでの研究の成果(これ以前り科研費研究)を踏まえて、著書『和歌の国「日本」─歌合を詠む』(花鳥社)を今年度前半に刊行する。現在、校了し初二句・人名・項目などの索引の作成にとりかかっている。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
コロナ禍により資料収集の調査旅行が思うようにできず研究の遂行に支障が生じている。しかし、本研究以前の科研費研究における調査旅行で発掘・収集した、これでも未調査の貴重な資料が大量にあり、また、今年度かろうじて行うことが出来た調査旅行で入手した資料がある。現在、それらの分析作業をとおして研究を遂行し、かつ論文を執筆・公刊することができた。 「研究実績の概要」に書いたが、現在、これまでの研究成果をもとに著書『和歌の国「日本」─歌合を読む』(花鳥社)を刊行するべく最後の作業をしている。また、幕府巡見使に随行した旅行家・古川古松軒の絵入り(彩色)名所案内記『奥羽名勝志』(全五冊)の翻刻・解説本を刊行するべく作業をしている。 また、共著であるが『東アジアの自然観─東アジアの環境と風俗』(東アジア文化講座・第4巻、二〇二〇年、文学通信)に論文「歌枕と名所─湯殿山から象潟へ」を載せた。同じく『和歌史の中世から近世へ』(花鳥社、二〇二一年)に、論文「歌枕から名所へ─和歌研究の視野に入れるべきか)を載せた。さらに、「日本文学」(二〇二〇年一〇月)に論文「歌枕「浮島」は実在したか」を載せた。 コロナ禍により資料収集の調査旅行はなかなか実行できないが、その分、論文・著書の作成にウエイトをかけて研究を進めることにする。
|
Strategy for Future Research Activity |
コロナ禍により資料収集の調査旅行がなかなか出来ない。図書館・資料館等に調査を申し込んでも断られたり、先方の都合の良い日にちを指定されたが、こちらは都合がわるくて行けない場合もある。 その分、マイクロフィルムの紙焼き写真を取り寄せ、また、これまで収集してきた大量の資料を検討し、本研究の遂行をできるかぎり進めることにする。また、コロナの状況を見計らって安全と思われる地域へ調査旅行を試みようと思っている。研究分担者と調査旅行をしたいのだが、これは当分あきらめたほうが良さそうである。その分、メールやテレビ電話等で頻繁に連絡をとっている。また、連携研究協力者になってもらって宿泊を伴う調査旅行をしたり、研究会をしたいと思うのだが、これも当分の間あきらめたほうが良さそうである。このように研究遂行上の支障はさまざまあるのだが、その分、論文と著書を作成・刊行することに精力を注ぐ。 なお、比較的コロナ感染の少ない富山県の図書館・資料館などにも、歌枕・名所に関する資料があるので、近いうちに行こうと思っている。また、福島県郡山市の市立図書館、相馬市立図書館などにも行くことにする。とりわけ相馬藩の名所づくりは、藩主が率先して領内に名所を設定し、画家に絵を描かせ、貴族歌人に歌を詠ませ、かつ藩主をはじめ藩士たちが歌を詠んでいる。これは仙台藩の場合と非常に似ている。したがって、仙台藩についてはすでに論文を発表済みであるが、あらためて藩主たちの領内巡覧記を検証し、さらにきめ細かく事実を究明し、新しい角度から検討して論文を作成する。
|
Causes of Carryover |
コロナ禍の蔓延により、資料収集の調査旅行が思うように出来ない。電車その他の交通機関、ホテルにおいて「密」状態になる怖れがある。また調査対象の図書館・資料館・博物館等から調査を控えて欲しいとか、こちらの都合のある日を指定されたりして、行けないことがあった。やむを得ず、調査旅行を控えたたため、せっかく頂いた予算であるが残念ながら効率よく使用できなかった。 研究分担者との調査旅行および実際に会ってお互いの調査資料や検討結果についての情報交換ができなかった。 ただし、コロナ感染の静まり具合を見計らって調査旅行にでかけることにしたい。また、各図書館等のマイクロフィルムの紙焼き写真を取り寄せるのに使用したり、参考資料(関連図書・論文)の購入にあてがう。
|