2021 Fiscal Year Research-status Report
古代における庭園文学と「名所」形成に関する比較文化史的研究
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20K00287
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
袴田 光康 日本大学, 文理学部, 教授 (90552729)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
張 盛開 静岡大学, 人文社会科学部, 教授 (00631821)
金 孝珍 明治大学, 研究・知財戦略機構(駿河台), 研究推進員 (20638986)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 庭園 / 名所 / 歌枕 / 詩蹟 / 画題 / 国風文化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は東アジアの漢字文化圏における庭園と文学の関係性を分析する中で、特に「名所」の形成という観点に焦点を当て、「名所」を詠んだ詩や和歌を調査し、日本・韓国・中国のそれぞれに分けてデータの収集を行った。 日本を担当した袴田は、『古今和歌集』における地名調査、および名所屏風の和歌や詞書における地名調査を行った。地名そのものは東国地域に及ぶまで広く分布している一方で、吉野や春日といった頻出の地名においては特定の季節や景物に結びつくという表現の類型化が見られることが明らかになった。特に屏風歌などでその地を訪れた旅人の視点で歌が詠まれる表現は、その発想が中国の画題の漢詩とも共通することを明らかにした。その研究成果の一部は所属の日本大学国文学会において口頭発表をした。 韓国の漢詩文における「名所」の用例調査は、研究分担者である金孝珍が担当し、『朝鮮王朝実録』を基本資料として、漢詩文に詠まれた名所や庭園のデータ化を進めている。全体の40%ほど作業は進んでいるが、すでに膨大な分量となっており、作成された時代の分類や「実景」か「見立て」かという表現の区別など、データを精査する作業が必要となってきている。 中国の漢詩における「名所」の調査は、膨大になることが予測されたので唐代の漢詩に限定して、張盛闢が『全唐詩』を基にデータの収集を行った。調査の結果はエクセルのファイルにまとめられた状態にある。その結果によると、湖南省の洞庭湖近辺や浙江省の西湖などの特定の地域に集中する傾向が認められた。これらのデータは「詩蹟」の「名所」化を示す典型として注目されるが、更に絵画との関係性を調査すべく画題との共通項を調べる段階に入っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
和歌や漢詩における「名所」の調査は、おおむね順調に進展し、調査の成果をまとめる段階に進みつつある。ただし、当初の研究計画で予定していた韓国・中国の漢詩に詠まれた「名所」の実地調査は、コロナ感染症の影響のため、実施することができなかった。また、実地調査に付随した海外の研究者との交流やシンポジウムの開催も見送らざるをえない状況であった。こられの点では研究計画通りに進展してるわけではなく、「おおむね順調」とは言えない面もあることは認めなければならない。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究推進のポイントは以下の3点である。1点目は、これまでの「名所」に関する和歌や漢詩のデータ収集の作業を完了させ、日本の平安時代、中国の唐代、韓国の高麗王朝時代に焦点を絞った形でデータを整理することである。2点目は、和歌や漢詩に詠まれた「名所」が庭園に再現されたり、また絵画のモチーフとされたりしたような相互の影響関係について具体的な「名所」を通して、「名所」化の構造をモデル化することである。3点目は、上記1と2を踏まえながら、中国・韓国・日本の各国の「名所」の形成を比較するとともに、漢詩から和歌への影響関係を分析することである。これらの研究を推進することで、研究期間の最終年度には、国風文化における「名所」形成の意味を明らかにしていく方針である。 なお、海外でのフィルドワークやシンポジウムはコロナ感染症の流行のため、これまで実施を控えてきた。今後も状況が大きく変わる保証もないことから、海外での実地調査や交流の場は可能になった場合の二次的な課題とし、現在、進めてるデータの整理と分析を中心とした研究を主軸に進めていく方針に切り替えていく。
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Causes of Carryover |
当初の研究計画においては、前年度および当該年度に韓国・中国での海外実地調査を行う予定で予算を見込んでいたが、コロナ感染症の流行のため、実施ができなかった。代案として当該年度において奈良の東院庭園などの国内調査を行おうとしたが、これもまたコロナ感染症の流行により実施を見送った。このため当該助成金が生じることになった。次年度においては感染状況が改善した場合には、これを海外出張の予算に当て、また状況が改善せず海外渡航が難しい場合には、次年度分の助成金と併せて、研究成果を公開するためのホームページの作成費用等に当てる計画である。
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Research Products
(2 results)