2020 Fiscal Year Research-status Report
Investigation and research on Kabuki actors' performances in the Tokai regions in the the late Edo period.
Project/Area Number |
20K00324
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Research Institution | Gifu Women's University |
Principal Investigator |
木村 涼 岐阜女子大学, 公私立大学の部局等, 准教授 (70546150)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 近世後期 / 歌舞伎役者 / 東海地域 / 芝居興行 / 社会環境 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和2年度は、承知の通り、コロナ禍の影響で調査できる研究機関や研究実施内容が限られてしまった。したがって、調査出張は少なかったが、与えられた環境の中で、極力研究の進展を目指し、実現可能な調査を行った。 本年度は、まず、近世後期、三都の歌舞伎役者の東海地域で行われた芝居興行の実態を捉えるべく、早稲田大学文化資源データベース内の演劇博物館データベースから関連資料の調査収集作業を行った。 次に、伊勢古市参宮街道資料館、大須観音を訪れ、周辺地域の芝居興行関連資料を収集した。伊勢古市参宮街道資料館においては、歌舞伎役者の伊勢古市及びその周辺地域における「芝居番付」や役者の舞台姿を描いた浮世絵をはじめ、興行に関連する諸資料を閲覧・調査し収集した。現在、収集してきた史資料の翻刻や、内容の分析を行っている最中である。 また、本年度は、木村妙子著『三木竹二 ―兄鴎外と明治の歌舞伎と』を書評した。日本が文明開化を迎えて、世の中が大きな変容を遂げ、近代という激動の時代の流れの中で、歌舞伎の「型」の記述に意欲的に取り組んだ三木竹二は、『歌舞伎新報』や『歌舞伎』といった雑誌の編集を務め劇評も続けていたが、病に冒され40歳で逝ってしまった。三木竹二の本質に迫った評伝を書評し、令和2年6月18日付の記事として共同通信社から、全国各地の新聞に配信、掲載された。 次に、市川團十郎家を始めとする歌舞伎役者の屋号の歴史に関して、読売新聞社から企画が持ち上がり、その監修を務めた。その記事が、令和2年8月26日付の読売新聞に「歌舞伎の屋号、いつから」と題して掲載された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度中心に取り上げた地域は、伊勢古市及び大須である。伊勢古市で開催された芝居興行については、伊勢古市参宮街道資料館を訪れ、史資料を調査・閲覧し、収集した。また、名古屋市の大須観音では、芝居興行に関する話を直接聞く機会にも恵まれた。 近世後期における歌舞伎役者の東海地域における芝居興行は、当初の計画通り、演劇博物館をはじめ三重県の諸機関から収集した伊勢古市芝居の関連資料に基づいて研究を進めている。 また、これまで収集した資料から、芝居興行に関わった人々の役割など具体的に判明できそうな興行もあると思われる。三都の歌舞伎役者の芝居興行が、伊勢古市及び名古屋大須周辺の人々にどのように受け入れられ支持されたのか、さらには、地方興行のシステムと三都の興行システムとの相違、また、歌舞伎役者の地方興行が、近世後期の歌舞伎界全般にどのような意義をもたらしたのかを追究していきたい。 そして、伊勢古市の芝居には、三都の歌舞伎役者が多数来演していることは収集した史資料からすでに判明している。三都の芝居小屋に所属している役者が、どのような経緯で伊勢古市の芝居出演を実現させたのかなど、地方興行成立の背景から究明する必要性を改めて感じた。 そこで今後は、三都の歌舞伎役者による伊勢古市の芝居興行成立の全体像を捉えるという課題に対し、歴史学的アプローチを採ることによって、新たな方法論を提示できるのではないかと思い至った。令和2年度において、三重地域の史資料収集は、ほぼ予定通りできたので、その分析、検討など研究はおおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の本研究課題に対しては、三都に所属している歌舞伎役者の東海地域における芝居興行の解明が最終目標であるが、研究推進方策の第一歩は、まず、地域社会と歌舞伎役者の東海地域の芝居興行との結びつきの実態解明を念頭に置き、愛知・岐阜・静岡の調査可能な機関で史資料を収集して、その翻刻、内容の分析を行っていく。内容分析を行った史資料について、その実態をまとめ上げ、学会発表に向けての準備をする。さらに学会発表で得た指摘を再度検討し、論文で調査成果を発表するつもりである。 また、諸機関に所蔵されている『御用留』、『御用日記』などの藩政資料や観劇記録、町方資料、村方資料からも、大名題の役者に関する史資料が残されていることが予想される。歌舞伎役者の芝居興行の全体像を捉えるためにこれらの史資料を有効的に活用していく。 歌舞伎役者の東海地域における芝居興行が、19世紀の歌舞伎界全般にもたらした意味や近世演劇にどのような影響をもたらしたのかを、より歴史的な視点も包含して追究することを心掛けたい。 本研究は、歌舞伎役者と地域の人々の結びつきの解明や当該地域の史資料を用いて地方興行を含めた歌舞伎役者の演劇活動を捉えるというところに独創性があると考えているので、次年度以降もこの方法を用いて研究を続けていきたいと考えている。
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