2020 Fiscal Year Research-status Report
明治20年代における自然思想の形成に関する研究:民友社・宮崎湖処子を中心に
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20K00325
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Research Institution | Aichi Shukutoku University |
Principal Investigator |
永井 聖剛 愛知淑徳大学, 創造表現学部, 教授 (50387833)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 帰省 / 故郷 / 徳富蘇峰 / 漢文脈 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、予定していた二つの研究の柱、すなわち(1)「民友社の刊行物に見られる「自然思想」の調査と検討」と、(2)「『帰省』を中心とする宮崎湖処子の小説の再検討」とのうち、(1)についてはもっぱら資料収集をおこない、(2)については『帰省』の文体的特徴に焦点を当てた再検討をおこなった。(2)の成果の一部は「宮崎湖処子『帰省』を読む―「帰思」が生まれるまで―」(『愛知淑徳大学大学院文化創造研究科紀要』第8号、2021年3月)にまとめた。本論文に収めきれなかった内容は、2021年度に続稿を用意する予定である。 上記論文では、上京・遊学という近代特有の人流と密接なかかわりのある「帰省」という新しい主題が、漢詩文をはじめ、欧米文学、和文、自作の小説や新体詩、日記など、古今東西の先行テクストを縦横に引用しながら織りなされていたことに着目。その異種混淆的かつ冗長・煩雑な手続きを経てようやく、「帰省」する意思=「帰思」が形成されるに至ったことを論じた。一般に「望郷の念」は上京青年たちにとってごく自然なもののように思われがちだが、実際は決してそうではなかった。それは、周到に構築されなくてはならないものだったのである。 徳富蘇峰は『帰省』が書かれたのと同年に、「故郷は一種のインスピレーシヨンなり」といい、それが直覚的に認識されるものだと述べたが、湖処子における「故郷」の価値は、さまざまな典故を参照することによってはじめて構築され得る、ブッキッシュなものだった。湖処子にとって「故郷」とは、帰る場所というよりも、過剰な記号の指示対象として意味を持つものだったのである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
covid-19感染拡大の影響で、あらかじめ見込んでいたエフォートを本研究に当てることができなかったことが最大の要因である。感染を避けるために調査旅行をすべて断念せざるを得なかったことも大きく響いた。図書館・資料館等の開館も限定的で、資料収集もインターネットを通じての申込にほぼ限定され、自分の手足を活かしての調査も果たせなかった。 おのずと手元にある資料体を用いての研究となったが、限られた条件の中での最善を尽くすよう努めたつもりである。
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Strategy for Future Research Activity |
予定通り、2021年度も「民友社の刊行物に見られる「自然思想」の調査と検討」および「『帰省』を中心とする宮崎湖処子の小説の再検討」を進めていく。後者については完成にまでこぎつけたい。covid-19の影響による調査の遅延も見込まれるが、収集できる限りの資料を駆使して成果を得たい。 また2021年度は、新たに「『ヲルヅヲルス』本文の検討」も研究内容に加える。ワーズワース思想の紹介者としての宮崎湖処子の再評価を念頭に、まず手はじめに、いかなる形成過程を経て『ヲルヅヲルス』本文が成り立ったのかを明らかにする予定である。
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Causes of Carryover |
covid-19感染拡大の影響で、あらかじめ見込んでいたエフォートを本研究に当てることができなかったことが最大の要因である。特に、感染を回避するために調査旅行をすべて断念せざるを得ず、旅費がまるごと未執行となってしまった。 次年度も今年度と状況はさほど変わらないが、研究資料調査・収集のための国内旅行については可能な範囲で、また、設備備品費(主に、明治期「民友社」「自然思想」関連図書の収集)については当初の計画通りに執行していく予定である。
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Research Products
(1 results)