2021 Fiscal Year Research-status Report
作家の文学形成と「地方同学コミュニティ」の研究―井伏・高田と宮沢賢治の場合―
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20K00331
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Research Institution | Fukuyama University |
Principal Investigator |
青木 美保 (秋枝美保) 福山大学, 人間文化学部, 教授 (40159330)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
平 浩一 国士舘大学, 文学部, 教授 (00583543)
平澤 信一 明星大学, 教育学部, 教授 (20270316)
大野 眞男 岩手大学, 教育学部, 嘱託教授 (30160584)
栗原 敦 実践女子大学, 研究推進機構, 研究員 (40086822)
田中 雅和 兵庫教育大学, 学校教育研究科, 教授 (40155164)
前田 貞昭 兵庫教育大学, その他部局等, 名誉教授 (60144797)
塩谷 昌弘 盛岡大学, 文学部, 准教授 (80644369)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 日本近代文学史 / 明治・大正期地域文化史 / 地域文化人交流史 / 未公開書簡翻字 / 文学・美術分野横断研究 / 宮沢賢治文学 / 井伏鱒二文学 / 地方同学コミュニティ |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度研究実績は、コロナ禍で出張調査がすべて中止となったため、文献調査のみとなった。 1,宮沢賢治に関わる、岩手県内の文化人宛ての翻字調査が終了した。2020年度に宮沢賢治の『春と修羅』の函のデザインを担当した阿部芳太郎関連資料の図版化、及び2020年度~2021年度に、盛岡中学の石川啄木の同級生、かつ「岩手毎日新聞」編集長で、地域の文化に影響力のあった岡山儀七宛書簡の翻字・データ化が、岩手古文書学会の協力によってすべて終了し、そのデータを栗原敦、平澤信一と共有した。 2,岩手県立図書館に救出した浦田敬三文庫の整理が終了し、2020年12月以降閲覧可能となった。研究分担者・盛岡在住の塩谷昌弘が、年度末に文庫内の、明治・大正期の資料を撮影し、研究チームにおいてネット上でデータを共有した。ただし、重要な雑誌の目次が主たるデータであり、本格的調査の準備段階である。 3,研究代表者・青木美保は、宮沢賢治に関する文献調査において、盛岡中学の同学コミュニティを精査し、石川啄木との関係を究明するとともに、盛岡中学同窓生の早稲田大学学生により、早稲田系の文学者とのつながりが生まれたことを明らかにした。その早稲田系の文学者の中で石川啄木と深い関わりのあった綱島梁川と賢治の文学との関係について論文にまとめ、宮沢賢治学会の機関誌『宮沢賢治Annual vol.31』(2021・9刊行)に掲載した。 4,研究分担者前田貞昭により、井伏鱒二の未公開書簡の翻字が完了、研究代表者・青木が、高田類三の日記等手稿の調査、及び文学史に関わる文献調査により井伏鱒二未公開書簡の文学史的な意義を解説、二つを合わせ『井伏鱒二未公開書簡 ある級友への手紙』を刊行予定で、2022年2月末に初校を終えた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
理由 コロナ禍のため移動ができず、出張調査が全くできなかったことが最も大きな理由である。 当初の予定では、宮沢賢治関係では、翻字された阿部芳太郎宛書簡から見えてくる大正期の地域の美術家の交流の状況や、絵画展のイベントに関わる資料の探索、関係者への聞き取り調査、及び岩手県内の公立図書館等での文献調査を予定していたが、すべてできなかったため、書簡の背景にまでふみこむことができなかった。また、同じく「岩手毎日新聞」編集長で、地域の文学愛好者と深い関わりのあった岡山儀七宛て書簡から見えてくる地域文化人の交流の様子について、把握することは、宮沢賢治の地域での文学活動の一端を明らかにすることにつながる可能性を秘めており、期待を寄せていたが、これも進展しなかった。 井伏鱒二関係では、すでに調査済みの資料以外の未見の高田類三の手稿等の調査、撮影、及びその翻字による内容把握と地方在住文学者としての高田類三の業績の把握と評価、文学史的位置づけの精密化を行う予定であったが、研究者の居住地(兵庫県、広島市)の感染状況と、資料所蔵者への感染防止の観点から高田家訪問を控えたことにより、調査は全くできなかった。2021年度の調査の中では、地方在住文学者・高田類三は、同じく地方在住文学者・宮沢賢治との比較研究をする上で、重要な調査であり、これができなかったことは、研究全体の停滞につながっている。また、井伏周辺の地域の美術家の書簡調査においても、同様の被調査者への感染防止の観点から訪問調査を控える状況であったため、これまでの調査の範囲内にとどまることになった。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画においては、2020年度・2021年度は、それぞれの調査研究を行う予定となっており、2023年3月に、その研究成果を持ち寄って盛岡市で研究集会を行うことになっている。これを目指して、可能な範囲での調査を再開することで、研究の遅れを取り戻す。 また、これまでの撮影データの翻字、及び解読の作業を進め、資料の内容把握を行い、研究チームメンバー各自の研究目的を遂行する。特に、『井伏鱒二未公開書簡 ある級友への手紙』が刊行されると、研究は進展が期待できる。 1,宮沢賢治関係……①岡山儀七宛書簡の内容把握(内容に関する把握とその文学史的事項との関連を評価する)、②阿部芳太郎宛書簡については、翻字された内容について、地域の文学者と美術家の関係を洞察し、地域文化史における宮沢賢治周辺の文化状況を明らかにする。③岩手県立図書館所蔵・浦田敬三文庫の調査を進め、地域の文芸雑誌やミニコミ誌などの調査から、地域の方言に関すること、地域の文学の動向などを明らかにし、宮沢賢治周辺の文化状況をあきらかにする。 2,井伏鱒二関係……①既に調査済みの資料以外の未見の高田類三の手稿の調査・撮影とその解読により、高田類三の地方在住文学者としての文学における業績を明らかにする。②井伏鱒二周辺の地域で影響力のあった佐々田憲一郎の手記の調査と、文学との関係を明らかにする。③井伏鱒二の手稿の表記と宮沢賢治の表記の比較調査をし、同世代の文字表記、及び、方言使用の特徴を明らかにし、文学創造との関連性を明らかにする。
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Causes of Carryover |
コロナ禍で出張調査がすべて中止となったため、入手可能な文献の調査のみとなった。その理由は、神奈川近代文学館、岩手県内での図書館及び地域文化人の交流に関する聞き取り調査、福山市在住の井伏鱒二の旧友高田邸での遺稿調査および聞き取り調査、福山市の大正・昭和期の地域の美術活動のけん引役であった佐々田憲一郎の遺族等への調査など、いずれも、コロナ感染防止の観点から控えざるを得なかった点にある。特に、高田邸での調査は、遺稿の撮影において長時間滞在することになること、本調査における被調査者がいずれも高齢であり、長時間の聞き取りなどの調査は控えざるを得なかったことが影響している。今年度の研究費の過半は、以上のような出張のための旅費等であり、使うことが不可能であった。 ただ、研究調査は中断していたのではなく、宮沢賢治関係者宛の書簡の翻字作業を完了し、岩手県立図書館所蔵の浦田敬三文庫の一部撮影とそのデータ共有のみ行った。
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Research Products
(1 results)