2020 Fiscal Year Research-status Report
The Development of National Culture and Local Culture by Culturalism, Focussing on Reiun, Sazanami and Chikufu
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20K00339
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Research Institution | Gifu University |
Principal Investigator |
林 正子 岐阜大学, 地域科学部, 教授 (30198858)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 国民文化 / 地方文化 / 文化主義 / 小木曾旭晃 / 占領期日本 / 文芸雑誌 / ドイツ思想・文化 / 森鴎外 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題について、令和2(2020)年度はとくに小木曾旭晃と総合文芸雑誌『地方文化』(1946年7月から1949年9月まで 33号)に関する研究を進めることができた。具体的には、明治30(1897)年から43(1910)年までの地方文壇の状況を描いた旭晃の著書『地方文芸史』(1910年)、自伝『逆境に苦闘して』(1932年)と『逆境の恩寵』(1961年)等を参照し、彼の主宰した雑誌『地方文化』の記事を分析することによって、田岡嶺雲、巌谷小波、登張竹風らのドイツ思想・文化受容による論説・作品などから導き出された〈文化主義〉の提唱が、昭和期の〈地方文化運動〉の展開をもたらした様相を明らかにした。 すなわち、旭晃が雑誌『地方文化』において、〈国民文化〉に対する〈地方文化〉が〈国民文化〉の下位概念ではなく、オルタナティヴとしての意義を有することを主張していること、〈敗戦国〉による〈文化国家〉建設の前提として、それぞれの〈地方〉が発展してこそ〈文化国家〉が成立するという信念にもとづく〈地方文化〉論を展開していることを明らかにした。 さらに、占領期の〈地方文化〉論の隆盛が、1940年代前半の〈新国民文化の建設運動〉に接合するとともに、文化を向上・発展させることを人間生活においての最上の目的とする〈文化主義〉のもと、〈地方文化〉が〈国民文化〉の創出に寄与することを志向した状況を確認した。以上のような研究内容を、別項に記載した論文と講演において公表し、近代日本の文化状況を問い直す際の〈地方文化〉論という視座の有効性を提示した。 また、近代日本の知識人が〈文化主義〉提唱にいたる歴史的・思想的背景を明らかにするとともに、その展開の諸相を確認することをめざしている本研究課題に関連して、上田敏、小山内薫ら27人が森鴎外に宛てて送った書簡92通の解読を進め、解説を執筆した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究のうち、博文館『太陽』をはじめ明治・大正期の代表的総合雑誌に掲載された田岡嶺雲、巌谷小波、登張竹風らの論説におけるドイツ思想・文化からの影響を考察することによって、近代日本の知識人が〈文化主義〉提唱に至る歴史的・思想的背景について明らかにするという課題については、当初の計画通りの成果を挙げることができていない。次年度に集中的に考察を進める予定である。 しかしながら、その〈文化主義〉の展開が、〈昭和維新〉と称される〈新国民文化の建設運動〉に向かった道程を明らかにすること、すなわち明治中期から大正・昭和期にかけての評論・論説の〈国民文化〉創生の意義を歴史的に位置付けるために、地方にこそ日本固有の文化があり、〈地方文化〉が〈国民文化〉を創出するという言説が頻出する昭和戦中・戦後期の地方文壇への影響の考察については、小木曾旭晃の雑誌『地方文化』の記事の分析を通して、一定の成果を挙げることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
近代日本の〈文化主義〉提唱におけるドイツ思想・文化からの影響を明らかにするために、田岡嶺雲については博文館『太陽』掲載のハインリヒ・ハイネ紹介記事を主な対象として、嶺雲が社会批評家としてのみならず詩人としてのハイネ像を浮き彫りにすることによって日本文明批評を繰り広げていることを論じる。 巌谷小波については、彼の〈メルヘン〉〈お伽話〉論におけるドイツ・メルヘンの作品・評論からの影響について論じる。併せて、博文館の少年雑誌『少年世界』に投稿し、明治33(1900)年には編集者として博文館に入社した木村小舟への巌谷小波からの影響するを明らかにする。具体的には、『少年世界』に掲載された小舟作品を小波作品と併せて分析することによって、近代日本の文明批評を体現する〈お伽話〉へのドイツ・メルヘンからの影響、中央文壇(小波)からの地方文壇(小舟)への影響の一面を明らかにする。 登張竹風については、『帝国文学』『新小説』『太陽』などに掲載された高山樗牛「美的生活を論ず」への賞賛・擁護の論説を考察することによって、〈国家主義〉隆盛の時期における〈個人主義〉思想の勃興に多大の影響を与えた竹風のドイツ文学者としての業績を明らかにする。 また、令和2(2020)年度に一定の成果を挙げることができた小木曾旭晃の〈地方文化〉論の考察については、引き続き、彼の主宰した文芸雑誌『山鳩』(1904年-1910年)、著書『地方文芸史』(1910年)、雑誌『地方文化』の後継誌『生活と文化』(1950年4月-1973年12月)などの史料の分析を通して、明治・大正・昭和と時代を重ねた地方文壇のネットワークの実態を考察する。さらに、〈国民文化〉と〈地方文化〉との関係性を論じるローカル・メディアが、狭義の〈地方〉に限定されず、〈中央〉のジャーナリズムに対するオルタナティヴとして機能していたことを論じる。
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Research Products
(3 results)