2021 Fiscal Year Research-status Report
The Development of National Culture and Local Culture by Culturalism, Focussing on Reiun, Sazanami and Chikufu
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20K00339
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Research Institution | Gifu University |
Principal Investigator |
林 正子 岐阜大学, 地域科学部, 特任教授 (30198858)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 国民文化 / 地方文化 / 巌谷小波 / 木村小舟 / 小木曾旭晃 / 森鴎外 / ハインリヒ・ハイネ / ドイツ思想文化受容 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、近代日本の知識人たちが、明治・大正期に受容したドイツ思想・文化を媒介として、「国民国家」確立期における「国民文化」創生の重要性について認識し、その発展に寄与した内実を明らかにすることを目的としている。併せて、ドイツ思想・文化の受容が一要因となり「文化主義」が提唱されるにいたった大正期の論壇に続き、昭和戦前・戦中期において、地方にこそ日本固有の文化があり、「地方文化」が「国民文化」を創出するという言説が頻出することになる背景と要因は何か、という問いに応えることをめざしている。 2021年度は、2020年度に考察した小木曾旭晃と同じく岐阜県出身の木村小舟に焦点をあて、さらに彼の師にあたる巌谷小波を対象とした。少年時より小波に傾倒した小舟が、「地方文化」の育成のために「岐阜通俗圖書館」を設立し、「少国民文化」の創生に寄与した業績を明らかにするとともに、小波自身については、近代日本「国民童話」におけるドイツ文化受容の意義という観点から、小波がめざしたのは、ドイツの民族精神による文化的共通性の追求というグリム童話の意義を範とした、近代日本における「子どものための文学」というお伽噺の確立であったことを論じた。 また、小波が森鴎外に宛てた書簡の考察を通して、自作『こがね丸』(博文館 1891年1月)への序文執筆を鴎外に依頼した経緯を明らかにし、『日本昔噺』 『日本お伽噺』 『世界お伽噺』 『世界お伽文庫』 などの小波の業績からの刺激を受けて編纂された「標準於伽文庫」の鴎外文業における意義を論じた。 さらに、鴎外におけるドイツ思想・文化受容の意義としては、鴎外文学の主人公ないしは登場人物の内面を投影する「分身」的存在、あるいは「もう一人の自己」として客観的に自己を眺める視点が、ハインリヒ・ハイネの「分身という発想」「覆面の男」というモチーフとの類縁性を有することを考察した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「〈文化主義〉による〈国民文化〉と〈地方文化〉の展開--嶺雲・小波・竹風を中心に」という研究課題のもと、申請時に2021年度の研究計画としていた巌谷小波および木村小舟をおもな研究対象とする論文執筆、口頭発表を遂行することができた。 さらに、2020年度からの継続・関連テーマとして、岐阜県出身の文人による「地方文化」育成・発展に向けての活動について、「岐阜通俗圖書館」運営における小木曾旭晃の業績を論じるとともに、2021年度当初の研究計画には入れていなかった、森鴎外文学におけるドイツ思想文化受容の意義についても論考をまとめることができた。 以上のことを事由として、現在までの進捗状況を「おおむね順調」としている。
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Strategy for Future Research Activity |
研究課題 「〈文化主義〉による〈国民文化〉と〈地方文化〉の展開--嶺雲・小波・竹風を中心に」のうち、2020年度・2021年度には田岡嶺雲、巌谷小波についての論考に力点を置いて発表してきたことから、最終年度となる2022年度においては、日本ドイツ文学界の先駆者である登張竹風について、彼のドイツ文学者・評論家としての業績を中心に考察を進めてゆく。 竹風は、「人生本能の発達満足」を説いた高山樗牛による「美的生活を論ず」(「太陽」1901年6月)への賞賛を趣旨とする「美的生活論とニイチエ」(「帝国文学」1901年9月)、田岡嶺雲をハインリヒ・ハイネになぞらえた論考「ハイネとニイチエ」(「新小説」1909年6月)を発表しており、さらに1921年には、『ツァラトゥストラ』の序章を親鸞に則して訳註・論評した『如是経序品』(星文館書店)、1935年には『ツァラトゥストラ』の全訳を『如是説法 フリードリヒ・ニーチェ』(山本書店)として刊行している。 論説「ハイネとニイチエ」では、ハイネをニーチェに近づけようとする当時のドイツ思想界からの影響を受けて、健康状態、キリスト教に対する態度、政治的立場、婦人に対する関係など10項目にわたって、ハイネとニーチェを比較論評していることから、これらの評論・訳業の具体的な考察をとおして、「国家主義」隆盛期における「個人主義」思想の勃興に多大の影響を与えた竹風のドイツ文学者としての業績を論じる。 これまでの論考を整理し、嶺雲、小波、竹風の論説・作品におけるドイツ思想・文化受容の実相と意義を考察することによって、近代日本の知識人が「文化主義」提唱にいたる歴史的・思想的背景を検討するとともに、「国民文化」の向上をめざす「文化運動」としての地方の状況を精査し、「地方文化」が「国民文化」を創出するという論調の由来と必然性を明らかにすることをめざしている。
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Research Products
(8 results)