2020 Fiscal Year Research-status Report
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20K00342
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Research Institution | Shimane University |
Principal Investigator |
野本 瑠美 島根大学, 学術研究院人文社会科学系, 准教授 (40609187)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 和歌文学 / 奉納 / 法楽 / 長歌 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、より広汎な「奉納和歌史」を構築するため、奉納和歌の画期たる11世紀~12世紀の作例を中心に、和歌以外の事例も視野に入れながら、奉納和歌の実態を明らかにすることを目指している。令和2年度は、(1)平安期奉納和歌における質的変化の解明、(2)奉納和歌に関する基礎的資料の調査と整備の2点を行う計画であった。 (1)については、奉納の変形として、「神仏に誓って和歌詠作を断つ」行為(=和歌起請)の事例を検討するため、同行為が確認できる西行・俊成・崇徳院について調査したが、その過程で従来指摘されてこなかった崇徳院遺詠が俊成・西行に及ぼした影響を発見し、その成果を中世文学会で発表し、審査を経て学術誌『中世文学』への掲載が確定した。また、崇徳院遺詠の調査から、俊成が後白河院崩御に際して詠んだ長歌にも崇徳院遺詠の影響が見られること、俊成が意識的に長歌形式を選択し、相手を選び贈答することで、院近臣と自家の結びつきを深めていたことを明らかにした。両研究は、単なるコミュニケーションに留まらない、長歌贈答の政治的・社会的役割を明らかにし得たと考えられ、中世和歌研究上においても重要な成果であったと考える。 (2)については、出雲市大社町の手錢家が所蔵する「天神仮託歌集」の一つ「瑠璃壺百首」の紹介と翻刻を『山陰研究』で発表した。「天神仮託歌集」とは天神を作者に擬した家集・百首(仮託歌集)で、奉納と同じ信仰心を土壌として生まれた作品と考えられ、広汎な奉納和歌史の構築を目指す本研究にとって、重要な資料である。本年度は、国内外の「天神仮託歌集」の書誌調査に赴く予定であったが、感染症の影響により県外での調査が全く行えなかった。今後の課題としたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
学会発表、2本の論文の刊行、資料紹介など、数量的には予定していた成果を上げられた。崇徳院と俊成・西行の関係の見直しは、奉納和歌研究に留まらず中世和歌研究においても重要な発見だったと考えられるが、当初目標としていた「和歌起請」に関しては口頭発表のみで、論文化に至らなかった。また、感染症の影響により予定していた国内外での書誌調査が実施できなかったため、「やや遅れている」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、本年度論文化に至らなかった「和歌起請」に関する論考、ならびに崇徳院と西行の関係に関する論考を早急にまとめておく必要があろう。また、引き続き「平安期奉納和歌における質的変化の解明」という目的のもと、11~12世紀の事例を中心に調査を進め、勅撰集における奉納和歌の入集状況や所収部立・部立内での配置の変化等の予備調査等を行い、次の研究発表や論文に繋げていく。 もう一つの目的「奉納和歌に関する基礎的資料の調査と整備」に関しては、感染症の状況を見つつ可能な範囲で実施したい。県外での調査が難しい場合は、すでに調査を終えてる「天神仮託歌集」について、本文データや他出・重複の一覧の整備を進めていくこととする。
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Causes of Carryover |
感染症の影響により国内外での資料調査が実施できなかったり、学会がオンライン開催となったため、旅費の使用額が予定と大幅に変わった。また、その調査をもとにしたデータ入力等の外注も実施できなかったため、人件費等の支払いも発生しなかった。今後の感染状況の推移を見て、適宜行っていきたい。
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Research Products
(6 results)