2020 Fiscal Year Research-status Report
謡本出版揺籃期における書肆の活動と謡本伝播をめぐる研究
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20K00349
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Research Institution | Hosei University |
Principal Investigator |
伊海 孝充 法政大学, 文学部, 教授 (30409354)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 能楽 / 謡本 / 出版史 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、寛永から正保期に刊行された観世流謡本中本の調査を中心に行なう計画となっていた。この本は従来の研究では、元和ごろに刊行された玉屋謡本の影響下に制作されたと考えられていたが、そもそも「玉屋謡本系統」というもの自体が存在し得ないことが、私の研究で明らかになってきた。その成果を踏まえ、まずは「寛永中本」の特質を明らかにするため。この本と慶長から元和期に刊行された謡本の比較を行なった。ただし、下記の事情により、閲覧や写真入手ができた寛永中本自体が非常に限られただけでなく、比較対象の謡本の十分に活用できなかった。そのため、検討する曲を5曲程度に絞り、今後の調査を進める上での仮説を立てることに専念した。 寛永中本の一つの特色は、前代の刊本に含まれない曲も所収されている点である。「つな」「敦盛」「吉野静」「鈴木」「藤栄」などがその例であるが、そのうちの「つな」と「敦盛」の詞章系統を調査した。この本は室町時代の写本にいくつかの伝本があるが、本文は必ずしも一致せず、一部下掛りの影響下と思えるような例もあった。また節付の面は、当然ながら室町時代古写本とは大差があるが、後代の謡本とも差異が認められる。この事例をどう考えるかが、今後の研究の重要な問題となる。また、前代の版本に含まれる曲のうち、「高砂」「かんたん」「葵上」と光悦謡本・整版玉屋謡本・元和卯月本を比較した。節付を含め、各曲とも比較謡本との類似点・相違点のバランスがかなり異なっており、「寛永中本」に集積したテキストは、その伝来が各曲異なることが想定される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
コロナウイルス感染症の流行により、研究がほとんど進展しなかった。本研究課題では、法政大学能楽研究所所蔵本をはじめ、多くの機関で原本調査をする必要があるが、各機関が閉館していた期間も長く、その後も東京からの閲覧の許可がおりないケースあり、研究を進めるための調査がまったくと言ってよいほどできなかった。そのため、手許にあった資料を用いての限られた調査となってしまった。今後、状況を鑑みながら、研究計画を練り直し、最大限成果があげられる方法を考えていく。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度もコロナウイルス感染症の影響が甚大であることが予想される。そのため、研究方針の大幅な見直しが必要となる。まずは、各機関が閉館してしまう事態も想定し、早めに資料の撮影依頼を出すこととし、出張費と計上していた分もその経費に回すことを考えている。その作業はすでに着手しており、自宅周辺でもできる限りの研究が進められる環境を整えている。また、写真での調査は限界があるが、まずは写真だけでできる分析を進め、コロナウイルス感染症が落ち着いたときに、調査出張で足りない情報を補えるように、作業を進める。
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Causes of Carryover |
コロナウイルス感染症の影響で、計画していた調査出張がまったくできなかったことが最も大きな理由である。今年度も調査出張がしづらい状況が続くが、その分資料を収集するための撮影料に多くの経費を活用したいと考えている。
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