2020 Fiscal Year Research-status Report
Study on the method of the quotation and acceptance of Chinese literature in Keichu's "Man'yo-daisho-ki"
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20K00351
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Research Institution | Niigata University of Management |
Principal Investigator |
西澤 一光 新潟経営大学, 経営情報学部, 准教授 (30248885)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 契沖 / 『万葉集』 / 漢籍出典 / 高野山 / 『三教指帰』 / 山上憶良 / 大伴旅人 / 『万葉拾穂抄』 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は17世紀後半に活躍した契沖阿闍梨による『万葉集』の注釈について、とくに、その漢籍出典の方法を照射することを狙ったものである。契沖阿闍梨による漢籍出典の引用は『万葉集』の作品を読み出すための端的な方法であることは誰しも認めるところであるが、それは引用の操作の背後に熟慮された思想と準則とが確立されていたためであるというのが本研究の予見的仮設である。 さて、2020年度における本研究の歩みは2つの道をたどって進められたと言える。第1に、契沖阿闍梨がその漢籍教養の素地を養った場所である高野山での弘法大師の書物の研究である。当該年度は『三教指帰』を読みこみ、この書物が契沖の万葉研究に与え得た利点の少なくないことが確かめられた。この歩みの背景として弘法大師空海の教養形成そのものも問題となるが、この点でも空海が官人になるための学生として学んだ時代の出典こそ『万葉集』におさめられた歌を制作した官人たちの教養に一致するものであることが確かめられた。したがって、『三教指帰』の引用漢籍出典は、契沖の引用漢籍出典の一覧を作成するための重要なベースの一つとなり得るという考えにいたりつつある。 2020年度における本研究の歩みの第2の道は、『万葉集』中で漢籍そのものを織り込んで制作された作品の集中する巻第五における山上憶良作品と大伴旅人作品ならびに巻第三におさめられた大伴旅人作品おける契沖の注釈方法を具体的に分析することを通じて進められた。その分析に当たっては契沖の『万葉代匠記』よりやや前に公刊されていた北村季吟の『万葉拾穂抄』における漢籍引用のし方との対照ができ、非常に有益であることが確かめられた。 以上のような具体的な考察から、契沖の『万葉代匠記』の「初稿本」から「精撰本」に至る過程で漢籍出典に関する調査や見識も進化し、それと同時並行的に読みの方法も深化していることが確かめられつつある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究は「『万葉代匠記』が利用する漢籍のコーパス全体の整理」を企図するものであるが、初年度はその基礎作業の緒についたものの、なお『代匠記』全巻における引用漢籍のコーパスの調査に着手できていない。それが今年度の主たる課題となるであろう。 上記の課題が生じた理由の第1は、コロナ禍である。過年度は私が予期していた以上の学生が私の講義を受講したため、遠隔講義でのメールを通じた指導に明け暮れたというのが実情である。学生が自宅に閉じこもっての学習環境にあるのを援助するためにできるだけのことをしようと一人一人にメールを通じてていねいに指導をしていたのであるが、これが当初予想していた「エフォート」の割合を大きく変更することになってしまったのである。 今年度はコロナ感染対策に配慮をしたうえでの対面講義に切り替わったので課題申請時のエフォートに近づけることができると考えられる。また、過年度に進めた基礎作業によって、より見通しがはっきりしたので引用漢籍のコーパスの作成作業が進展することと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、過年度に進めた2つの道(①『三教指帰』をはじめとする空海の著作における引用漢籍出典の整理と意義の究明、②『万葉集』巻5ならびに3、さらには6まで含めた大伴旅人作品、山上憶良作品に関する契沖阿闍梨の読解における漢籍出典の引用方法の具体的な分析)をいっそう進めることによって、契沖阿闍梨における「解釈学」の体系が具体的に引き出されるところまで分析を進めることを目指している。 同時並行的に、『万葉集』全巻にわたる『万葉代匠記』の注釈作業における漢籍出典の利用の実態を整理する作業に着手し、データの抽出を進めることとしたい。 さらに、この科研費補助事業の前に推進していたもう一つの科研費補助事業における「契沖『万葉代匠記』における歴史的背景」の研究からの継続的な問題意識としての『万葉集』の「解釈学」を契沖とともに構築することも視野と念頭に入れておくつもりである。
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Causes of Carryover |
コロナ禍のためほぼ自宅にこもっての研究となり、必要物品(主に書籍:例えば空海の『三教指帰』、北村季吟の『万葉拾穂抄』ほか)の購入も煩を避けるために自費で購入していた。研究会ならびに学会への出席、さらに調査のための旅行等をすべて断念した。以上が初年度研究費をほとんど支出しなかった理由である。 今年度については、空海の書籍(『弘法大師全集』、『国訳一切経』など)や『万葉集』の主要典籍である『文選』や『毛詩』にかかわる研究典籍を必要に応じて購入したい。また、研究成果をネットワーク上に公表するためにYouTube動画を活用したいと考えているので、デジタルビデオカメラ機材および周辺機材の購入も検討したい。 また、引用漢籍出典のデータベースを構築すると仮定した場合にどのような環境が必要であるかなお未検討であるが、何らかの形でデータベースが構築できればと考えており、それに必要な経費も検討したい。
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Research Products
(1 results)