2021 Fiscal Year Research-status Report
Study on the method of the quotation and acceptance of Chinese literature in Keichu's "Man'yo-daisho-ki"
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20K00351
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Research Institution | Niigata University of Management |
Principal Investigator |
西澤 一光 新潟経営大学, 経営情報学部, 准教授 (30248885)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 契沖 / 万葉代匠記 / 漢籍引用 / 作品読解 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、契沖阿闍梨が『万葉集』の研究において自ら確立していた漢籍引用の方法を明らかにすることを目的する。2021年度は、これまでの研究内容を単著論文「一七世紀における契沖による解釈学の確立」(ジュリー・ブロック編、『受容と創造における通態的連鎖 日仏翻訳学研究』、2021年9月10日、新典社刊)において公刊し、『万葉代匠記』が「初稿本」から「精撰本」へと書き換えられるプロセスのなかで、作品論的視点からなる解釈学を確立し、注釈を作品の読解に意義のあるものによって構成しようとする志向を明確にするなかで漢籍出典の取捨選択を意図的に行い、漢籍引用と作品読解を有機的に関連づける方法を確立していったと考えられるという仮説を提示した。 また、同論文は、上記の図書のフランス語版である“Les chaines trajectives de la reception et de la creation : une etude franco-japonaise en traductologie”(Peter Lang,2021)に≪L'etablissement de l'hermeneutique par Keichu≫としてフランス語訳版としても公刊された。 上記論文では、とくに『万葉集』の巻第五所収の「松浦河に遊ぶ序」と歌とからなる作品の分析をめぐって、「初稿本」と「精撰本」の内容の違いを比較検討し、契沖が創作者を固有の思想の創造者として捉え、作者特有の表現世界の創造を考察していることを明らかにしているが、2021年度は、さらに「初稿本」と「精撰本」とで注釈内容が顕著に異なる事例を分析し、私の従来立ててきた仮説がさらに裏付けられる結果を得ている。 その内容については、2022年度上代文学会全国大会(5月21日~22日)における招待講演で発表する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
過去2年間にわたり契沖の『万葉代匠記』について調査と分析を積み重ねてきた結果、その『文選』からの引用について特に特徴のあること、また、それが契沖若年時の高野山の学堂における修学と密接な関係のあることから、契沖が実際に読んだと目される弘法大師空海の著述の分析へと進んできた。 契沖の言語観と真言密教の経典や教義との関連については、従来、築島裕氏が『契沖研究』(岩波書店)に発表した「契沖の語学と仏書」という論文(1984年)と井野口孝氏が公刊した『契沖学の形成』(和泉書院、1996年)に論じられているところであるが、この2論では具体的な作品読解に関連した考察がなく、抽象的な議論に終始してる。私の研究では、個々の万葉作品の注釈において契沖が仏書や漢籍を引用し、注釈する様態を具体的に分析し、両論の理論上の欠陥を補う分析が得られつつあると考えている。 また、契沖の注釈観については、吉川幸次郎氏の『読書の学』(筑摩書房、1975年)が有益な考察を提示しており、私も裨益するところが大であるが、吉川氏は『万葉集』の分析については専門家ではないという立場から敢えて踏み込まないという見識を維持されている。私の研究は吉川氏の考え方を受け止めつつ、契沖が実際の作品読解をどのようにすすめていったのかについて焦点を当て、また、具体的な結果が得られつつもあると考えている。 従来の『万葉集』の注釈書を検討するに、契沖の注釈と漢籍引用を読解の方法という視点から対象化しておらず、その結果のみを借用するにとどまる。しかし、契沖が「初稿本」から[精撰本」へと改稿するプロセスに注目することにより、契沖が読解の方法を確立しながら漢籍引用も自覚的に方法化していったことが明らかになりつつある。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究が昨年までの分析で闡明してきたように、従来の研究の方向は、漢籍並びに仏典から契沖が得た言語観と実際の『万葉集』の注釈作業とのあいだを結ぶことができておらず、そのため、漢籍引用において契沖が暗黙知的に形成していたであろう方法論を導き出すには至っていない。しかし、「言語観」という視点の提示そのものは、有益であり、それは、契沖の仕事が確実な知的、思想的基盤のうえに形成されていることを示すものである。したがって、本研究は、この研究史上の展開を明確に位置づけなおしつつ、過去の諸賢の研究成果を契沖の注釈的読解の動的なプロセスの解明のために掘り起こす作業をしていくことの意義を改めて確認した。 この方向性の確認の上にさらに、『万葉集』全巻にわたる契沖の注釈的読解の具体的な作業を分析しなおし、「初稿本」から「精撰本」に改稿される過程で、作品の読みがいかに形成されていったのかについて事例分析を蓄積していく。 その具体的分析の上に立って、契沖の言語観と作品読解の方法のあいだの連関を再検討し、総体としての契沖の「解釈学」の構造を明らかにするという方向へと研究を進めるのが今年のビジョンである。
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Causes of Carryover |
(1)1月~3月に2回の研究会を京都で開催する予定を立て、研究協力者の了解も得ていたが、コロナ感染の急速な拡大が生じたため、研究会を中止せざるを得なくなったこと。 (2)文献のデータ処理と保存のため最適な方法を検討しているが、方法ならびに機材についての選定が間に合わなかったこと。 (3)研究成果を随時インターネット上にPDFファイル等で公開していく計画であったが、上記のような理由により、十分な発表内容を蓄積するに至っておらず、成果発表を目的としたウェブサイトの解説がペンディングになっていること。 (4)同じく、研究内容について、インターネット上に動画で解説するコンテンツを作成する計画であるが、これも(3)と同じ理由によりペンディングになっていること。
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Remarks |
(1)アラン・ロッシェ氏とは、解釈学や東洋学と西洋哲学の関連についての論考をメールでやりとり。(2)寺田澄江氏は、今回刊行された書物の共著者。2016年にパリで開催された日仏翻訳学会でともに発表している。(3)オーギュスタン・ベルク氏は、今回刊行された書物の共著者。2016年から2019年にかけてパリと京都で開催された日仏翻訳学会で研究発表と議論をしてきた。
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Research Products
(7 results)