2021 Fiscal Year Research-status Report
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20K00353
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
竹内 千代子 立命館大学, 文学部, 非常勤講師 (00330382)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 芭蕉顕彰俳諧 / 近世後期京都俳壇 / 淀藩士俳諧連中 / 畑吟風俳諧資料 / 田川鳳朗 |
Outline of Annual Research Achievements |
『淀藩士連中と芭蕉顕彰俳諧考―畑吟風俳諧と京俳壇―』として、資料収集及び考察をまとめて印刷し、WEB公開をした。畑家俳諧資料は継続的に収集してきたが、京俳壇や畑竹楼、吟風親子の俳諧環境が詳細に知られるものを中心にまとめ、分類目録を改訂するなど、それらの概要を公開する好機と判断した。また、それに伴う考察からは、近世後期における芭蕉顕彰俳諧の様子の一端が浮かび上がった。淀藩士間での俳諧興行が成立するほど成熟した俳諧環境にありながら、市井の俳諧師と積極的に交流し、しかも当時の京都俳壇と連動する活動であった。この動きは、本稿を一例として、他のより多くの実例を調査検証する必要性が課題として生じたことを示す。今後に継続する。 芭蕉顕彰俳諧考の学会発表を目標としているが、コロナ禍の中で、研究成果を検証する機会が減少している。本年度は、京都俳文学研究会例会において「淀藩士連中と京俳壇」と題して研究発表を行い、学会発表の準備として会員からの有益な助言を得た。これをもとに学会発表の準備をすすめる環境が整ったと言える。その一部は、京都俳文学研究会会誌「俳文学研究」76号において、「淀藩士吟風と田川鳳朗」として発表した。吟風が芭蕉に傾倒し、蕉風俳諧を専らとする契機として、鳳朗との対面が位置付けられるものである。 南山城の石清水八幡宮神主である柏村直條が編纂した『八幡八景』は、漢詩、和歌、俳諧発句を収める近世前期、元禄頃の作品集である。ここ数年、輪読会を行っているが、その研究から近世後期に繋がる和漢聯句や各ジャンルの作者によるコラボレーションの可能性が考察された。俳諧において、漢詩や絵画との積極的なコラボレーションは、近世後期の文人達の間でも盛んであった。その中で「芭蕉」の存在は重要な位置を占める。今後に継続する考えである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2021年度にまとめた『花供養』翻刻集成Ⅰは、『花供養』54冊のうちの初代芭蕉堂の高桑闌更主催の12冊を全冊翻刻し、作者に地域を付した俳号索引を作成したものである。付属資料として、12冊の編成状況、年別・国別入集発句数、所蔵一覧を付した。WEB公開もしている。当初の計画では54冊の全翻刻を計画していたので、次には、芭蕉堂二世の成田蒼きゅう主催の11冊をⅠと同様Ⅱとしてまとめる作業を開始している。2022年度のまとめとしての印刷が出来る見込みである。作業は概ね順調に進んでいる。ただし、パソコンの操作の不慣れから大量なデータ処理は想像以上に困難であり、今後の課題である。 『淀藩士連中と芭蕉顕彰俳諧―畑吟風俳諧資料と京俳壇―』(2021年度)は、近世後期の芭蕉顕彰俳諧資料の収集と考察で、WEB公開もしている。当該資料の収集は継続的に行ってきたが、まとめと考察の好機と判断した。21年度のまとめは総てを考察するものではないが、重要な研究成果に成り得たと考えている。今後に継続して順次補足、考察する計画である。学会発表も併せて考えている。 以上は概ね順調な研究成果を成しえていると言えるが、当初の計画である京都嵯峨の落柿舎に関連した調査と考察が十分とは言えない。2022年度は落柿舎とそれを再興した井上重厚に視点をあてて考察する。とくに、奥羽行による奥羽俳壇との交際から芭蕉顕彰事業を通じて芭蕉顕彰運動の推進の状況を明らかにする。そして、これらの成果をもとに重厚の発句集および年譜をまとめる計画である。 2022年度については、喫緊の課題である個人蔵の堀家資料の収集が、コロナ関係のため当初の計画よりも遅れているが、これまでに収集したものをまとめ、考察する機会と捉えていきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の推進方策は、京都の芭蕉顕彰において象徴的な向井去来の落柿舎を再興した井上重厚についての調査をまとめ、公開する。2022年度については、重厚の年代順の発句集及び略年譜を完成させる。発句の入集状況からは活動の様子が知られ、年譜事項の考察に及ぶこともあり、それぞれが補完し合って研究に資する資料とすることが期待される。また、彼の芭蕉顕彰の活動の一つとして、奥羽行脚がある。これは芭蕉顕彰の事業を追跡することによって、芭蕉顕彰運動を推進する考察に繋がるものである。学会発表も視野に入れつつ研究を進めていく計画である。 次に、『花供養』からみた芭蕉顕彰俳諧の実態調査及び考察として、『花供養』の翻刻資料集成の継続的な研究を進める。同書は、近世後期の芭蕉顕彰俳諧の基礎的なものであり、研究に資する重要な資料である。2022年度は、『花供養』翻刻集成Ⅱをまとめて印刷、WEB公開する計画である。すでに原稿作成を開始しており、概ね計画に沿っている。当初は、『花供養』54冊全翻刻を計画しており、翻刻作業は順調に進んでいるが、それに付随した資料の作成は、パソコン操作の不慣れから大量のデータ処理に問題が生じている。補助的な処理作業を委託できる環境が必要であり、適切に対処していきたいと考えている。 当初の計画にはなかったのであるが研究を展開する中で、新たに重要なテーマが生じつつある。俳諧・和歌・漢詩集『八幡八景』を輪読研究する中で、俳諧と和歌、漢詩などの文芸間のコラボレーションの様子が観察された。近世後期の芭蕉顕彰俳諧においても「芭蕉」を軸とした漢詩、絵画とのコラボレーションがあり、研究課題を展開させる新しい試みのテーマであると考えている。
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Research Products
(3 results)