2020 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
20K00387
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Research Institution | Aichi University of Education |
Principal Investigator |
尾崎 俊介 愛知教育大学, 教育学部, 教授 (30242887)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ホール・アース・カタログ / ヒッピー・ムーヴメント / ベビー・ブーマー / スチュアート・ブランド / カウンター・カルチャー / LSD / アレクサンダー・テクニーク / ボディー・ワーク |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は1960年代から1970年代にかけてアメリカを席捲した「カウンター・カルチャー」と自己啓発本/思想との関わりということに焦点を当てた2つの論考を執筆・発表することが出来た。 まず「自己啓発本として読む『ホール・アース・カタログ』」という論考では、1968年にスチュアート・ブランドによって創刊された『ホール・アース・カタログ』というカタログ雑誌に着目した。この雑誌が創刊された頃のアメリカでは、公民権運動やベトナム戦争の激化によって特にベビー・ブーマー世代の若者の間に厭世観が蔓延し、それが幻覚剤の使用を含むカウンター・カルチャーの流行につながったわけだが、一見すると非生産的にも見えるカウンター・カルチャーの延長線上に「地球環境保護運動」と「パソコン・ネットワークの発達」という二つの極めて自己啓発的なムーヴメントが生じたことも確かなのであって、カウンター・カルチャーをこれら二つのムーヴメントに接続するのに大きな役割を果たした『ホール・アース・カタログ』は、その意味で、「二十世紀最大の自己啓発本」であったと見做すこともできる。本論ではこのような観点から『ホール・アース・カタログ』の歴史的意義を論証し、その再評価を行った。 一方、「スポーツと自己啓発、自己啓発としてのスポーツ」という論考では、同じくベビー・ブーマー世代に焦点を当てつつ、社会改革的側面を持つカウンター・カルチャーに飽きた彼らが、1970年代以降保守化し、「社会改革」よりもむしろ「自己改革」に邁進し始めたこと、そしてその結果として、「健康維持」が彼らの主たる関心事になったことを指摘、その手段として「スポーツ」というものがクローズ・アップされ、スポーツにまつわる指南本が自己啓発本として読まれるようになっていった経緯を明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究では、カリフォルニア大学ロスアンゼルス校において文献調査を行う予定であったが、コロナ禍の状況に鑑み、当初の予定を変更して国内で行える調査に基づいて研究活動を行った。 そのような予期せぬ状況はあったものの、既に収集してあった各種資料の読解と分析に時間をかけることによって、アメリカにおける自己啓発思想の進展とベビー・ブーマー世代のメンタリティの相関関係を明らかにする2本の長文の論文をまとめることが出来たことは大きな収穫であった。なお、この2本の論文は、将来的に公刊する予定の書籍の二章分に相当するものであり、そのことを踏まえても、本年度の研究計画は「おおむね順調に進展している」と判断してよいと思われる。 なお、上記のような理由により、本年度に予定していた研究費の全額を使用することができなかったが、これについては翌年度に繰り越し、有意義に使用する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
令和2年度に発表した2つの論考、すなわち「自己啓発本として読む『ホール・アース・カタログ』」と「スポーツと自己啓発、自己啓発としてのスポーツ」は、いずれもアメリカの「ベビー・ブーマー世代」と自己啓発本の関わりに焦点を当てたものであったわけだが、この2本の論考を執筆する過程で、ベビー・ブーマー世代の存在が、アメリカにおける自己啓発本出版史に大きな影響を与えていたことを再確認したことにより、今後の研究の目標として、新たに二つのテーマを得ることができた。 そのうちの一つは、1970年代のベビー・ブーマー世代の自己改革欲を刺激した「エサレン研究所」について調査と分析を進めるというものである。カリフォルニア州にあるエサレン研究所は、1970年代のアメリカで流行した「ヒューマン・ポテンシャル運動」の牙城であるが、「人間にはもっと大きな可能性がある」と主張するこの運動が、自己啓発思想の変奏であることは明らかであり、エサレン研究所の動向を調べることは、そのまま1970年代の自己啓発思想の在り様を考察する鍵になると思われる。 もう一つは、「終活系自己啓発本」について調査と分析を進めるというものである。ベビー・ブーマー世代が老齢に差し掛かってきた2020年代の今日、来るべき「死」に対する心の準備が自己啓発本の主要テーマになりつつある。そのことを受け、自己啓発本/思想が、人間にとっての永遠のテーマである「死」をどのように扱ってきたかを調査・分析することは、今後の自己啓発本の流行を占う意味でも興味深いテーマであるように思える。 以上のことから、令和3年度は「エサレン研究所と自己啓発思想」、及び「終活系自己啓発本の現在地」というテーマを掲げ、調査・分析と論文の執筆を試みたい。
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Causes of Carryover |
(理由)本年度の研究では、カリフォルニア大学ロスアンゼルス校において文献調査を行う予定であったが、コロナ禍の状況に鑑み、当初の予定を変更して国内で行える調査に基づいて研究活動を行った。そのため、旅費として申請した額が使用できず、次年度使用額が生じた。 (使用計画)次年度に関しても、コロナ禍によって状況は流動的であるが、もし状況が緩和してアメリカへの渡航が可能になれば、本来1年目に計画していたカリフォルニア大学ロスアンゼルス校での文献調査を含め、アメリカの自己啓発本の出版史についての研究を進めていく。
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Research Products
(2 results)