2020 Fiscal Year Research-status Report
ピンチョン文学における科学と人文学との接点について──「見ること」という観点から
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20K00415
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
石割 隆喜 大阪大学, 文学研究科, 教授 (90314434)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ピンチョン / メイスン&ディクスン / 科学 / 宗教 / 神 / コペルニクス / ケプラー / ガリレオ |
Outline of Annual Research Achievements |
Mason & Dixon についての研究を開始した。『メイスン&ディクスン』における主人公たちの「見ること」がいかに科学(天文学)と宗教(キリスト教、そして神)の接点に位置しているかを明らかにし、そこから同作の現実表象(ミメーシス)の特徴(モダニズム的認識論とポストモダニズム的存在論のせめぎ合い)を探ることが目的である。まず、『メイスン&ディクスン』についての先行研究のうち、科学と宗教というテーマから論じているものを精査し、整理した。『メイスン&ディクスン』における科学と宗教について、科学的合理主義と宗教を対立するものと捉え、同作において宗教が科学を批判する役割を担っているとの見方が一般的である。同時に、ポストモダニズムの宗教性を指摘する研究も現れているが、Thomas Pynchon を取り上げながら『メイスン&ディクスン』に言及していない等の問題も見受けられる。 次に、作品における主人公の二人の科学者(天文学者)の「見る」行為について、精読を通じ整理した。中心となるのは、金星の太陽面通過の観測を描く作品前半である。彼らは望遠鏡を用いて天体を科学的に観察するが、同時に、彼らにとって天体の運行は神の御業でもある。このように、科学的な自然の観察が神を「見る」ことでもあることを、テクストの読解を通じて確認した。 次に、科学(天文学)と宗教(神)の関係について、科学史や哲学の分野で蓄積されてきた豊富な先行研究を参照しながら、具体的には科学者(天文学者)にとっての神について調査した。『メイスン&ディクスン』と直接関係する科学者(天文学者)はガリレオ、ケプラー、ニュートンであるが、コペルニクス、ガリレオ、ケプラーの天文学が神と切り離せないものであることを、彼らの著作にあたりながら確認した。ニュートンにとっての神についての研究は次年度に持ち越しとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
進捗状況がやや遅れている最大の理由は、コロナ禍への対応のため本研究課題以外の業務負担が著しく増し、当初予定していたエフォートを確保できなかったことである。また、参加予定だった海外の学会 (2021 MLA Annual Convention) もオンライン開催となり、時差の関係でリアルタイムでの視聴が適わず、オンデマンド視聴も日々の業務をこなしながらではほとんどできなかったことも理由の一つである。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度(令和3年度)もコロナ禍への対応のため本研究課題のためのエフォートが確保できないことが予想される。当初は令和3年度に『メイスン&ディクスン』についての口頭発表を計画していたが、やや難しいかもしれない。必要であれば研究期間の延長も視野に入れる。
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Causes of Carryover |
COVID-19 パンデミックにより、参加予定だった海外の学会 (2021 MLA Annual Convention) がオンライン開催となり、旅費の支出が不要(学会参加費のみ)となったため。翌年度、状況が許せば、繰越し分は学会参加ではなく調査旅費としての支出を予定しているが、物品費として使用することもありうる。
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