2021 Fiscal Year Research-status Report
カナダ作家が見/魅せるアントロポセンの文学―脱人間中心性をめざして―
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20K00433
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Research Institution | Kindai University |
Principal Investigator |
岸野 英美 近畿大学, 経営学部, 准教授 (90512252)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
佐藤 アヤ子 明治学院大学, 国際平和研究所, 研究員 (70139468)
荒木 陽子 敬和学園大学, 人文学部, 准教授 (90511543)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 脱人間中心主義 / 水の表象 / ノヴァスコシア / 文学会議 / 人種的マイノリティ / カナダ西海岸 / カナダ東海岸 |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度は個々の作家、映画制作者が作品を通していかにAnthropoceneのカナダで環境と関わりながら社会的強者に抵抗しているのかを検証した。具体的な研究内容と主な成果は次の通りである。
岸野はHiromi GotoのDarkest Lightを前年度に検討したAnthropoceneをめぐる議論・理論を借用しながら分析、論文として纏めた(『アジア系トランスボーダー文学』所収)。一方カナダ西海岸を拠点として活動するRita Wongの詩を取り上げ、Wongが資本主義における権力に抗い、多角的に水を捉え、倫理観を持って水と関わることの重要性を伝えていることを明らかにした。以上を学会で発表、論文として纏めた(AALA Journal掲載)。 佐藤はAtwood作品を含むカナダ文学を紹介する原稿を執筆(『現代カナダを知るための60章』所収)、さらに本研究課題を発展させるためにカナダ文学フィールドを超え、文学イベント「東アジア文学会議」(北九州市主催、日本ペンクラブ企画・監修)のシンポジウム「地球を聴く」の企画・司会を行った。日本、中国、韓国出身の作家や詩人が登壇した本シンポジウムは、Anthropocene時代の文学の可能性と役割を探る貴重な契機を与え、西日本新聞等で評価された。 荒木は一年間の育休取得のため十分に研究できる状況ではなかったが、滞在先のカナダで前年度に引き続きカナダ東海岸の環境をめぐる作品を解読、当該年度はアフリカ系住民と先住民に対する環境レイシズムを扱うEllen PageのThere's Something in the Waterを分析、論文として纏めた(エコクリティシズム・レヴュー掲載)。 またPageとWongの作品はAnthropoceneに根付く資源開発と利益優先の中で生じた収奪的経済体系の問題への議論を促すものである。今後もこの点を含めて考察を深めていく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
前年度に続き、新型コロナウイルス感染拡大のため、予定していた北米での現地調査と資料収集もカナダ人作家の招聘も行うことができなかった。また一部の学会で制限があり、研究成果を十分に発表することもできなかった。さらに令和3年は研究代表者の所属機関異動によって環境が大きく変化し、研究計画を多少変更しなければならなくなった。しかし、メンバーの一人が一年間の育休を取得し、研究が困難な状況であったにもかかわらず、滞在先のカナダで可能な限り研究を進め、他のメンバーに情報提供を行ったことで、予想以上に成果を出すことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、最終年度である令和4年度も研究に取り組むことがやや難しいくなると思われるが、岸野は引き続きWongの作品、特に中国の三峡ダム建設の問題を描いた作品に注目する。また令和3年度にAAALA Journalに掲載されたエッセイで紹介したVincent Lamの小説を取り上げ、考察を深める。佐藤はAtwoodの著書を通してAnthropoceneになぜ作家が書くのかという問いを追求していく。荒木は引き続きカナダ東部の作品、特に大西洋の水産資源の崩壊が描かれたDonna Morrisseyの作品分析を行う。以上の成果の一部を令和4年6月に開催される日本カナダ文学会のシンポジウムでメンバー全員が公開することになっている。またエコクリティシズム研究学会やアメリカ文学会支部会等でも口頭発表を行い、論文として纏めていく予定である。
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Causes of Carryover |
コロナ禍の中、予定していた北米での現地調査と資料収集を実施できなかった。またカナダ人作家の招聘もできなかった。令和4年度もコロナ感染の状況を見ながら、現地調査と作家招聘の実現に向けて準備を進めていく。一方、学会発表や打ち合わせ等はオンラインで行うことができたが、現地での資料を収集することができないため、計画の一部を変更し、それぞれの所属機関で手に入る文献等の調査に基づいた研究を進めている。その成果の一部を積極的に学会等で発表する予定である。
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Research Products
(10 results)