2021 Fiscal Year Research-status Report
A Study of Text Flow in the Manuscript Tradition of Medieval German Literature: The Case of Dietrich's Epic
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20K00462
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
寺田 龍男 北海道大学, メディア・コミュニケーション研究院, 教授 (30197800)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 中世ドイツ文学 / ディートリヒ叙事詩 / 写本 / 本文の流動 |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度は(1)写本間の異同の大きさは「改作者(または写字生)」の恣意のみによるか、(2)「改作者」は複数の写本を校合しつつ新しい本文を作ったか、の2点について考察を進めた。 (1)前年度分析を開始した『ヴィルギナール』についてさらに考察を進め、写本間の本文異同は(Hugo Kuhn以来の通説通り)改作者の意思に帰するべき点が多いと判断した。ただし基幹部分(すなわち1人の作者の1つの「オリジナル」)とみなされてきた箇所でも異同は大きい。とくに重要写本の間で筋の展開に大きく影響を及ぼす相違が見られることから、最初期の段階で「オリジナル」が複数あった可能性は無視できない。しかし見方を変えれば、初めから「オリジナル」が複数あったのではなく、段階的にいくつもの「オリジナル」が生成したと考える方が実態に即していると言えよう。今年度は『エッケの歌』と『ラオリーン』、および『ヴォルムスの薔薇園』についても同様の考察を進めた。 (2)複数の系統の本文が共存ずるいわゆる「混態本」について、分厚い蓄積がある日本文学の研究成果を援用しつつ、いかにして本文が混淆するかを考察した。1000年から1340年にかけての日本文学とドイツ文学を比較研究する機会に恵まれ、幸いにして日本文学の研究者から多くのご教示をいただけた。そこで日本の後朝の歌という異なった素材ではあるが、その書記伝承の過程で本文をとりまく状況(コンテクスト)が流動する過程をたどることのできる具体例を論文で記述した。この成果を直接ドイツの叙事詩諸作品の分析に応用するにはむろん慎重であらねばならない。しかし少なからぬ研究者からポジティヴな反応が得られたので、今後もこの考察を進める所存である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2021年度も海外出張ができなかったため、当初予定していた資料の閲覧や、それらを直接参照しつつ行うべき打ち合わせも叶わなかった。出張予定国では今なお行動が著しく制限されているため、研究助言者2名も研究の遂行が困難で、資料の閲覧が著しく制限された状態が続いている。 謝金により大学院生の協力を得てデータ整理を行う予定だったが、当人の帰国で協力が得られなくなった。そのためこの作業は自力で行っており、研究の進捗が当初の予定よりも遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度も記したことだが、海外出張が可能になり次第、旅費によりドイツの研究助言者と資料を見ながら直接面談し、研究の進展をはかる。しかし現今の状況では渡航自体はもとより資料の閲覧も困難な状態が続くと予想される。そのため、独力でできる作業を進めていく。本研究企画が対象とする諸作品の、写本ごとの本文の異同の特徴と傾向をできるだけ明らかにするという基本線で進める。
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Causes of Carryover |
旅費を使用できなかったことと、現今の状況ゆえ多くの研究成果(書籍・雑誌論文など)の刊行が大幅に遅れていることによる。 次年度は以下の計画である。 1)旅費によりドイツのバイエルン州立図書館およびブレーメン大に赴く。同地で研究助言者のヴンダーレ博士およびケアト博士とともに資料調査と研究打ち合わせを行い、研究を進展させる。 2)刊行が遅れている書籍等が多数出版される見通しなので、それらを購入してさらなる進展につなげる。
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Research Products
(2 results)