2022 Fiscal Year Research-status Report
A Study of Text Flow in the Manuscript Tradition of Medieval German Literature: The Case of Dietrich's Epic
Project/Area Number |
20K00462
|
Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
寺田 龍男 北海道大学, メディア・コミュニケーション研究院, 特任教授 (30197800)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | 中世ドイツ文学 / 比較文学 |
Outline of Annual Research Achievements |
2022年度も前年度に続き、(1)写本間の異同の大きさは「改作者(または写字生)」の恣意のみによるか、(2)「改作者」は複数の写本を校合しつつ新しい本文を作ったか、の2点について考察を進めた。 (1)2020年度に分析を開始したディートリヒ叙事詩の諸作品について、海外研究協力者とさらに協議を進め、実証的な考察の記述をさらに進めることができた。2021年度は、作品そのものの成立時に複数のオリジナルがあった可能性は否定できないが、むしろ段階的にいくつものオリジナルが生成したという仮説を立てた(未発表)。その考え方に基づいて2022年度も各作品のさまざまな写本における異文(または段落などのまとまった改変・変種)のあり方を把握し、なぜそうした異文が生まれるかについて引き続き考察した。 (2)ただディートリヒ叙事詩の諸作品はいわゆる古典文芸に依拠するものではなく、口頭伝承に由来する、ないしは書記伝承と並行して展開する口頭伝承から常に影響を受けて写本が書かれていたと考えられる。そのためある写本が先行写本や先行作品から何をどのように摂取したかを判断するのは容易でない。そこでディートリヒ叙事詩と同様にヴァリエーションが大きい作品として知られるハインリヒ・フォン・ミュンヘンの『世界年代記』(14世紀後半に成立)における写字生の姿勢を分析した。年代記はまったく異なる性質のジャンルではあるが、ハインリヒの『世界年代記』とディートリヒ叙事詩諸作品は、写本間の本文の異同の大きさの点では中世ドイツ文学でも双璧と言われるほど流動性が高い。そこで『世界年代記』の一写本を素材としてその写字生の行動のあり方を考察したところ、いくつかの知見が得られた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度はこれまでの研究を進捗させ、過去2年間の遅れを一定程度取り戻すことができた。 (1)ディートリヒ叙事詩の諸作品における写本間の異同に関する考察をさらに進めることができた。 (2)中央大学の縄田雄二氏・吉野朋美氏と進めてきた1000年から1340年までの日本とドイツ語圏の文芸作品(とくに抒情詩)とそれらが記載された写本における本文のあり方に関する考察を共著論文として公表した。この作業を通して、新たな視点を本助成研究にいくつも取り入れることができた。中世ドイツ文学では史資料の欠如や不足により研究を進めにくい側面がいくつかあるのに対し、日本文学ではまさにそれらの点で証拠が豊富に残されている場合がある。むろん安易な比較や応用は慎まなければならないが、いくつかの「考えるヒント」は提示できたと考えている。 (2)ハインリヒ・フォン・ミュンヘンの『世界年代記』の一写本を書いたある写字生に注目し、この人物が典拠として先行する諸作品から何をどのように取捨選択したかを跡づける論文をゾーニャ・ケアト氏(ブレーメン大)と共著で発表した。写字生があるまとまった記述をする場合、必ずしも特定の作品だけを引用するのではなく、同じような内容をもつ異なる作品群から数行ごとに典拠を変えつつ記述を進める場合があることを示し、なぜそのような行動をとったかについて考察を示した。(なお本論文ではエリーザベト・ヴンダーレ氏(バイエルン州立図書館)からも助言を多数いただいた。)得られた知見はディートリヒ叙事詩の分析にも有効であると考える。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後も上記「研究実績の概要」に示した(1)および(2)に沿って考察を進める。 2023年度は海外出張が可能になると見込まれるので、これまではメールやzoomで研究協力者と協議を行いつつも具体的な資料にふれられなかったさまざまな点を一つ一つ検証し、同時に対面で議論を行う。そして従来同様の方針で、本研究企画が対象とするディートリヒ叙事詩諸作品の、写本ごとの本文の異同の特徴と傾向をできるだけ明らかにする。 海外出張が再び困難になった場合は、メールやzoomなどを従来以上に活用して研究の進展を目指す。
|
Causes of Carryover |
コロナ禍のため助成研究の初年度(2020)および2年目(2021)に十分な研究が行えず、繰越額が大きかったことに加え、3年目である2022年度も大きくは改善しておらず、海外での研究活動が困難であった。また刊行が予定されていた研究書もまだ発刊に至っていないものが少なくなく、今回も次年度使用額が生じた。 助成最終年度(2023)は海外研究協力者とその所属機関を訪れて資料を閲覧しつつ綿密な打ち合わせを行う。また最新の知見が盛り込まれた書籍も購入して助成研究の完遂を目指す。
|
Remarks |
以下の論文をブレーメン大の研究者Sonja Kerth氏と共著で発表した。その際バイエルン州立図書館のElisabeth Wunderle氏から多数の助言を得た。 Ergaenzen, Auslassen, Kontaminieren [...] (メディア・コミュニケーション研究 76 (2023) 21-51)
|
Research Products
(3 results)