2020 Fiscal Year Research-status Report
マグレブにおける社会変革と仏語表現文化:グローカリズム時代の市民的愛国意識の創生
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20K00463
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
青柳 悦子 筑波大学, 人文社会系, 教授 (70195171)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 北アフリカ / マグレブ / アルジェリア / 日本マンガ / マンガ創作 / 市民 / 社会変革 / 異文化理解 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、現在、自由化と市民社会の構築がめざましい勢いで展開しているマグレブ地域における新たな表現文化活動に注目し、その特質と意義を明らかにしようとするもので、とりわけ、全国的な市民デモを通じて社会変革が進行しているアルジェリアに焦点を据えて、文学のほか、若い世代による日本式マンガ(DZマンガ)の創作を市民意識の創成の観点から検討する研究に着手した。 本年度は、アルジェリアの代表作家であるサンサールの小説を詳細な解説つきで翻訳刊行したほか、10年以上前から展開されてきたDZマンガのうち、もっとも主要と思われる5作品10巻(Natsu, Degga; S. Sabaou, Street Fighter; S. Brahimi & M. Fella, Nahla et les Touareg; S. Brahimi & M. Abdelghani, Samy Kun; S.-A. Oudjiane & R. A. Hamou, Vitory Road) について具体的な作品分析と、創作の背景などについての調査をおこない、文書にまとめた。これを研究資料として、表象文化に関心のある研究者や学生に開示し、どのような反応があるのかを調査した。 作品内容と背景の検討から、アルジェリア内の地域的な多様性の尊重と都市偏重の価値観への反省意識、ジェンダー問題への鋭敏な意識、世代間格差の是正、覇権主義とは別種の国民としての自己肯定感の創出への意志などが析出できた。資料への反応からは、こうした側面をもつDZマンガが、作品としての「完成度」とは別の側面から、世界的な異文化理解と共生感覚の促進のために、きわめて触発力に富む素材であることがわかり、今後の研究活動展開の指針が得られた。 なお、現地の創作家とのビデオ会談を通じた意見交換が現地の新聞・ラジオで報じられ、本研究活動のプレゼンスを高めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
Covid-19の感染拡大への対応のため、大学内での対応策の策定と実施、一教員としての授業や教育遂行のための準備や基本的な技術の修得などに圧倒的な時間がかかり、研究面に力をそそぐことが、とりわけ12月ぐらいまでは不可であった。 招待されていたアルジェ国際漫画フェスティバルの開催が中止となり、予定していたアルジェリアへの渡航が中止となった。そのため現地での資料収集や調査ができなくなり、また協働での活動展開について計画を立てることも不可能な状況になってしまった。
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Strategy for Future Research Activity |
北アフリカ地域の文学活動の展開について、社会変革の観点からの検討を続行する。 DZマンガの作品分析については対象をさらに拡大し、内容と背景の分析によって包括的な視座を得るとともに、社会へ向けての発信を準備する(解説、抜粋紹介、作品全体の翻訳など)。また本年度、やや広げることができた創作家たちとのコンタクトをさらに拡大し、研究と現地での創作との双方向的な関係の構築をめざす。 また、マンガにとどまらずアルジェリアにおける文学創作などほかの表現文化に注目しながら、現在進行中の社会変革の動向との関係について注視していく。 とりわけCovid-19の影響により、世界の国々がそれぞれに孤立状態に置かれることになったが、このことがマグレブ地域の3国(アルジェリア、チュニジア、モロッコ)の場合はどのような影響をもたらし、とりわけ成長世代がここからどのような方向性を打ち出していくのかを検討する。また、Covid-19の蔓延のために2021年度の海外渡航はまだ困難であると予想され、また現地での創作活動も低迷している。2021年度はこれまでに入手できた創作物を中心に、分析活動を続行し、また論文として成果発表していく。
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Causes of Carryover |
残額は1万円に満たないわずかな金額であり、翌年度分と合わせることで、有効な利用をおこなうことができる。
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Research Products
(2 results)