2023 Fiscal Year Annual Research Report
未来派演劇における身体性の研究ーその抽象化と機械化の意味
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20K00497
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
菊池 正和 大阪大学, 大学院人文学研究科(外国学専攻、日本学専攻), 教授 (30411002)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 未来派 / 綜合演劇 / 視覚化演劇 / フィリッポ・トンマーゾ・マリネッティ / ピーノ・マスナータ / 演劇における身体性 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和5年度は、未来派演劇において最も革新的な劇作法が具現化された綜合演劇に、さらに抒情性と主観性を補完することになったピーノ・マスナータ(Pino Masnata)の「視覚化演劇」(Il teatro visionico)のマニフェストと実作品を取り上げ、そこにおいて綜合演劇とは異なる形で時間の同時性や空間の浸透が表象されたことで、綜合演劇に新たな展開を促すことになったことを、国際シンポジウムにおける口頭発表および学術誌におけるイタリア語論文で論証した。 マスナータの「視覚化演劇」は、フラッシュバックや意識の流れ、現実の空間と想像の空間の相互浸透といった時間的・空間的な操作によって主人公の主観と心理を強調することで特徴づけられていた。こうした劇作法が導入されたことにより、未来派の「綜合演劇」は1920年代において変革を遂げることになる。「綜合演劇」は当初、簡潔さや技法の否定、観客に驚愕を惹起する効果に重点を置いていたが、「視覚化演劇」の影響によって、より心理的で深みのあるアプローチを追求するようになった。この進化はとりわけマリネッティの1920年代の戯曲作品に顕著であり、「連鎖的シンテジ」(le sintesi incatenate)のような劇作法においては、マスナータの理論に触発されて、連続的で奥行きを伴った時間軸やプロットを導入している。さらに、「視覚化演劇」の基本的要素である色彩の使用も、「綜合演劇」における単純な驚愕の効果や視覚的ダイナミズムを超えて、登場人物の心理状態をニュアンス豊かに表象するための劇作法として補完されている。 研究期間全体を通して、未来派演劇の劇作法に関しては通時的にその特徴の変化を跡付けることができた。また、そこにおける身体性の抽象化・機械化の意味に関しては、同時代の主観と客観の認識をめぐる問題に還元できるだろうという仮説にまでは辿り着いた。
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