2021 Fiscal Year Research-status Report
| Project/Area Number |
20K00626
|
|---|
| Research Institution | University of Yamanashi |
|---|
Principal Investigator |
長谷川 千秋 山梨大学, 大学院総合研究部, 教授 (40362074)
|
|---|
| Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
| Keywords | かなの成立 / 真仮名 / 万葉仮名 / 平仮名 / 墨書土器 / 神歌抄 / 神楽歌 |
|---|
| Outline of Annual Research Achievements |
「万葉仮名（以下、真仮名）」の表記研究の進展と、9世紀後半の「かな」墨書土器が相次いで発見され、墨書土器から「平仮名（以下、かな）」出現期の「かな」のかたち・用法がある程度具体的に見られるようになり、「かな」が成立する過程への疑問や、「真仮名」と「かな」の不連続性が露わになってきた。「かな」への移行の必然性を含め、従来の考え方に再考を要するようになってきている。
本研究の目的は、以下の3つの問い―A「かな」が「真仮名」に代わって求められる場面とはどこか、B上代の「真仮名」の用字法は優れて漢字のそれと線引きが可能であるのにも拘わらず、「かな」はなぜ「真仮名」とは視覚的な異なる「かたち」が必要とされたのか、Ｃ「かな」が「真仮名」と異なる「かたち」を獲得していく過程はどのようであるのか―を明らかにすることにある。
昨年度に引き続き、本年度は、Cの「かな」が「真仮名」と異なる「かたち」を獲得する過程を明らかにすることに主眼をおき、日本語史ではあまり扱われることのない、宮中神楽の古写本である東京国立博物館蔵『神歌抄』を研究対象とした。書写年代不明の『神歌抄』について、これまでの研究により『神歌抄』の「かな」字形と収集した文字資料の「かな」字形から概ね10世紀半ばと結論することができているが、『神歌抄』には誤写が多くあり、表記史上の位置づけが難しい。そこで、鍋島家本『東歌神楽歌』や陽明文庫本『神楽和琴秘譜』（伝藤原道長筆）などの神楽歌古写本と比較することで『神歌抄』の本文整理を行うこととし、『神歌抄』と鍋島家本の仮名遣、本文の比較を行った。今後は、陽明文庫本を含め本文整理を行い、歌うことを前提とする神楽を文字に記すという書写目的の特性がどこまで表記に影響を与えているのか、表記様態をも含めて『神歌抄』の質を明らかにすることで、「真仮名」を用いる神楽歌古写本群を表記史に位置づけていきたい。
|
| Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度の研究では、3つの課題のうち最も着手しやすい課題である「「かな」が「真仮名」と異なる「かたち」を獲得していく過程はどのようであるのか」に関わり、日本語史や表記史研究においてほぼ手つかずの資料の、東京国立博物館蔵『神歌抄』を題材とした。『神歌抄』は、真仮名による表記、連綿しない「かな」表記、連綿のある「かな」表記の、3つのパターンに表記様式が分かれており、連綿しない「かな」が特徴的である。本年度は、『神歌抄』と鍋島家本『東歌神楽歌』の比較を行うことにより、『神歌抄』の仮名遣が10世紀の特徴を有することが明らかにできた。しかし、『神歌抄』に誤写が多いという資料性の問題が残されており、表記史への位置づけが十分にできていない。以上の点から上記の評価とした。
|
| Strategy for Future Research Activity |
新型コロナウイルス感染拡大により、学内で予定していた各種行事のオンライン実施への組み直しなどの対応に追われた。その準備に追われたため、十分な研究時間を確保できなかった。県外への文献調査も、定期的に大学院生とともに県内高等学校へ授業観察に行っていたため、自粛せざるを得なかった。今後は、可能な範囲で業務や研究を遂行していくことをめざしたい。すでに収集した資料や公開されているアーカイブ資料の活用とともに、必要な資料を購入することで、少しずつでも研究を進めていきたい。
|
| Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染拡大防止による出張自粛のため予定していた県外図書館での調査ができていない。加えて、新型コロナウイルス対策に関わる学内業務により研究に対するエフォートをかけることができなかった。以上のことにより次年度使用額が生じた。令和4年度も新型コロナウイルス感染拡大防止対策は継続することから、予定していた県外出張計画を、書籍購入に切り替え使用することとしたい。
|
