2021 Fiscal Year Research-status Report
近代日本語史における「ひらがな」を中心とする文字認識論的研究
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20K00643
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
山田 健三 信州大学, 学術研究院人文科学系, 教授 (00221656)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 書記モード史 / カタカナ先習 / 平仮名先習 / 仮名生成 / 仮名語彙 / 書記論 / 文字論 |
Outline of Annual Research Achievements |
今期の研究成果は、論文1編と口頭公表1件である。1)近代におけるカタカナ先習について:日本語書記モード史研究のために(『信州大学人文科学論集』9-2、2022年3月刊行)。そして、2)仮名を見直す(2022年1月23日、広島大学「日本語史研究の新しい視座」講演)。 1は、本研究課題が掲げる、近代から現代における平仮名問題を考察をすすめるに当たっては、平仮名と対のものとして、しかしその関係は時代的に異なるカタカナに関する実態解明も併せて検討しておくべきものとして、戦前戦中の「カタカナ先習問題」を扱った。「カタカナ先習問題」とは、戦後は平仮名先習であるのに対して「戦前はカタカナ先習であった」とされる問題であり、よく知られている言説であるが、本稿の目的は、カタカナ先習という習慣の淵源・根拠を見出そうとするものである。本稿の議論で確認しえたことは、カタカナ先習は明治19年以前には遡らないこと、理論的根拠として心理学的実験結果が示されるものの、むしろドイツ読本の方針が影響を与えている可能性を指摘し、「カタカナ先習問題」には、今後の更なる検証の必要性のあることを指摘した。 一方、2)では、山田が2010年から現在まで公表し続けてきた書記論関係の論考を踏まえつつ、これまでの文字論・書記論を大局的に概観し、未解決問題に向かうための、仮名を研究する問題意識・スタンスといった点に重点を置いた発表を行った。日本語書記史研究における、書記モードという視点導入の重要さなどを述べるとともに、4つの個別案件(問題提起)を示した。①上代仮名からの仮名生成問題(1)、②複数音節文字種の併存問題、③仮名語彙問題、④上代仮名からの仮名生成問題(2)である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2021年度もコロナ禍の中でスタートしたので、昨年度に引き続き、実地調査、また研究室の自由に困難が伴い、研究の力点を資料収集や学術情報収集優先にシフトした。昨年度調査および公表した「葛原勾当日記」についての継続研究の成果の公表については、目下継続的にデータ整理・分析を行っているが、当初予想よりはやや難航している。研究計画のもう一つの柱である、日本国憲法制定期における、日本語書記モード史研究については、「近代におけるカタカナ先習について:日本語書記モード史研究のために」(『信州大学人文科学論集』第9号第2冊、2022年3月)という論考を完成・公表することができた。また、書記システム全体を概観する研究成果を「仮名を見直す」というタイトル下で講演を行うことができたので、当初目標は概ね達成できたと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度は、2020年度に集中的に行った『葛原勾当日記』の分析を通して得られた成果を更に進展させた研究を発表するべく、目下分析中である。この分析作業は、①当該テクストを中心としたものと、②同時期の他の文献資料(手書きの日記文献)との対照研究との、①②両面からのアプローチを考えており、そのための分析作業には、そのデータ量から考えてまだ数年は有するが、推進のために成果の公的発表(口頭発表、論文投稿)の機会を得る予定である。ただ、特に論文公表のためには、精確を期すための実地の確認調査が必要であるが、残念ながらいまだコロナ禍が全国的に拡大している中、移動を伴う実地調査がどこまで、またどれほどの期間可能かは不明とせざるを得ない。これについては、状況を見ながら可能な範囲で調査を試みたい。更に、書記論全般にわたるこれまでの研究をまとめる作業にも入る予定である。
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Causes of Carryover |
当初計画で見込んだよりも若干安価に研究が進んだため、次年度使用額に残額が生じた。次年度使用額は令和4年度請求額と合わせて消耗品費として使用する予定である。
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Research Products
(2 results)