2022 Fiscal Year Research-status Report
『雅言集覧』を核とした近世国語辞書群の和文用例が近現代辞書に及ぼした影響の研究
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20K00651
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
平井 吾門 立教大学, 文学部, 准教授 (80722214)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | うつほ物語 / 宇津保物語 / 国書辞典 |
Outline of Annual Research Achievements |
江戸時代に編纂された古語辞書『雅言集覧』は、編者・石川雅望の『源氏物語』研究を核として成立しているが、その他の典拠も含めた古典用例の扱いについては依然として未解明の点が多い。 今年度は、これまでの研究で、主たる典拠である『源氏物語』『枕草子』『栄花物語』について解明を進めたが、さらに『うつほ物語』の扱いに注目し、その用例が辞書の中でどのような役割を果たしているのかについて調査を進めた。まず、江戸時代前期において『うつほ物語』を重視した契沖の流れをふまえつつ、石川雅望が『うつほ物語』に対する造詣を深めていく様子をその著作から探った。さらに、石川雅望の古典研究の集大成である『雅言集覧』においても『うつほ物語』を積極的に活用するに至った様子を追った。その結果、石川雅望は、『うつほ物語』に見られる錯簡の問題や『源氏物語』に比べると完成度に欠ける『うつほ物語』の文学的評価には立ち入らず、『雅言集覧』においてはあくまで『源氏物語』に先行する古典語資料として利用していることが分かった。また、『雅言集覧』の用例をコーパスや現行辞書と比較することで、『源氏物語』やそれ以降の作品からは得られない文型やコロケーションを的確に『うつほ物語』から抜き出していることも分かった。この成果は第126回訓点語学会研究発表会で発表するとともに、現在細かい調査を加えて論文化を進めている。 また、この成果もふまえながら、『雅言集覧』の用例が明治以降の辞書に与えた影響を探る調査を進めている。特に、前年度までは戦後の古語辞書の検討が中心であったため、近代の古語辞書『国書辞典』を精査し、その特徴を論じるとともに、立項の仕方や用例選定、そして用例の切り取り方に対して『雅言集覧』の用例が大きな影響を及ぼしていることを具体的に示した。この成果は「『国書辞典』と『雅言集覧』」(『立教大学日本語研究』29号)に投稿している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
『雅言集覧』の用例が持つ特徴とその影響については、『雅言集覧』の精査と構成への影響の両側面から順調に進めることができた。また、それにともなって今後の研究につながる発展的な課題も多く見つかってきた。 一方で、コロナ禍の影響は大きく、今年度も当初予定していた資料調査にはまったく行くことができなかった。そのため、資料調査によって得られたであろう知見についてはほとんど深めることができていない状況にある。その一方で、昨年度以上にインターネット上の言語情報データの整備や古典籍に関する資料公開が進んだほか、国会図書館デジタルコレクションのOCR処理に伴う全文検索の技術等が公開され、従来見落としていた用例や先行研究にアクセス可能になった点が大きい。具体的には、『雅言集覧』に先行する江戸時代の辞書『倭訓栞』の画像公開が飛躍的に進み、『雅言集覧』も貴重書籍の画像公開の充実によって、まだ直接の研究成果には結実していないが、最終的な総括に繋がる形で調査の精度を上げることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き『雅言集覧』の古典用例を細かく見ていくことになる。「用例の切り取り方」を指標としていた関係で散文用例の分析が中心となっていたため、和歌用例の扱いについて改めて近代への影響を見据えながら精査していく。 なお、大規模な資料公開が断続的に続いてきたこともあり、資料収集の点では予想以上のものを扱うことができるようになった一方で、それらを具体的にどうまとめ上げていくのかということを改めて整理していく必要が生じた。現在、見ることができない資料についてピンポイントで実地調査を行うとともに、インターネット上のデータ資源の活用を進めて、次の研究に繋げていくことが肝要である。特に、これまで蔵書の確認等しか調査方法がなかった「辞書において典拠の詳細が示されていない用例」に関して、改めて国会図書館デジタルコレクションの全文検索を活用した調査を進めて本研究の総括を行いたい。
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Causes of Carryover |
コロナ禍の影響を受けて、当初予定していた旅費を伴う研究調査がまったく行えなかった。それにより、調査先での貴重資料の複写費も執行することができなかった。その一方で、当初予定していない速度でインターネット上の資料公開が進んでいるため、複写費のかわりに電子媒体への保存および印刷を充実させていくことになる。また、旅費を伴う研究調査についても時機を見ながら進めたい。
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Research Products
(2 results)