2023 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
20K00920
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Research Institution | Toyo University |
Principal Investigator |
澤柳 奈々子 東洋大学, 文学部, 教授 (60647436)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | ギリシア / 難民 / 小アジア / 住民交換 / 日本船 / 記憶 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、難民の経験がどのように人類の記憶に残るのか、どのように歴史として記憶され、記述されるのかという大きな問いを、実例に即して明らかにする試みである。具体的には、第一次世界大戦直後に始まったギリシア・トルコ間の戦争で発生した難民、特に小アジアのギリシア系正教徒難民に焦点を当てた。彼らが戦争中のみずからの体験をどのように記憶し、歴史として再構成されていったのか――具体例として日本船による難民救済の記憶がある――その過程を探ることを目指した。日本船によるギリシア系正教徒難民の救済という記憶に基づく「歴史」はこれまで史料的に裏付けられたことはなく、難民の記憶ののみに依拠したいまだ書かれざる「歴史」である。本研究では、この記憶に基づく歴史が、どの程度実証に耐えうるものであるのかを検証する。 本研究はコロナ禍の時期に重なってしまったため、海外での資料収集を断念せざるを得ず、当初の予定通り研究を進めることはできなかった。しかしながら、この間(2020~2021年)これまで収集した手元にある史料の整理と分析を進め、難民の救済をしたと考えられる日本船の動きや船長を特定する作業に専念した。コロナ禍も収束の兆しを見せ始めた2022年度は、これまでの調査の結果から導きだされた船長の親族のもとで、国内フィールド調査を行った。さらに、海外渡航が可能となったことから、ギリシアで、研究の成果をギリシア語で発表する機会を2回得した。また研究の成果を論文(英語)で発表した。日本船による難民救済という出来事は難民の全くの作り話とは言い難いが、日本側の当事者の一次史料が見つからない限り、実証されたと未だ言い切れないというのがその要旨である。最終年度の2023年度は、難民の記憶を歴史的事実と見なして利用することへの懸念を内容とする報告を、国内で開催された国際シンポジウムで報告し、論文(英語)で発表した。
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