2021 Fiscal Year Research-status Report
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20K00924
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
石黒 ひさ子 明治大学, 研究・知財戦略機構(駿河台), 研究推進員 (30445861)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 墨書陶磁器 / 花押 / 沈没船 / 博多遺跡群 / 泉州 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は研究テーマである「新視点による墨書陶磁器研究とその史料的集成」のため、「綱」字墨書陶磁器への新解釈、墨書陶磁器の文字解釈への新基準、墨書陶磁器の出土地域ごとのデータベース作成という目標を設定している。その基礎となる中国での関連考古学的出土物の実見調査は本年度もコロナウイルス感染症対策のため調査不能であった。しかし、海外では国際学会Asia-Pacific Regional Conference on Underwater Cultural Heritage(APCONF) 2021(オンライン開催)に参加、「綱」字墨書陶磁器について報告し、会議参加者からの情報によりフィリピン沈没船の墨書陶磁器情報等を得ることができた。 墨書陶磁器の文字解釈では沈没船南海Ⅰ号の「花押」についての論考を発表し、墨書陶磁器「花押」へ新たな視点を示した。2021年度承認の中国・泉州市の世界遺産申請に関連して刊行された安渓青陽下草埔冶鉄遺址と泉州南外宗正司遺址の考古学調査報告書では、それぞれの遺跡から出土した墨書陶磁器資料も発表された。このうち安渓青陽下草埔冶鉄遺址出土の墨書陶磁器については論考をまとめ、中国・南京大学で刊行されている『大衆考古』に投稿し、2022年以降掲載予定である。また冶鉄遺址に関連し九州国立博物館で開催された「アジアを変えた鉄」シンポジウムでは沈没船搭載の鉄資料について報告した。 データベース作成については、2021年度に発掘が終了した博多遺跡群第221次遺跡より港湾遺跡を示すと考えられる石積み遺構とともに「綱」字を含む墨書陶磁器が多数発掘されたことから、博多遺跡群墨書陶磁器の再集成とデータベース化に取り組むため、2021年度より入力作業等を開始、継続中である。また第221次調査の成果により、未発表の墨書陶磁器も福岡市で整理が進められており、それについての助言も行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究では中国及び東南アジア地域で出土した墨書陶磁器の現地実見調査による墨書陶磁器の出土データの集成を目指していたが、コロナウイルス感染対策により海外調査の実施はできない状況にある。この状況に対応し、日本国内において博多遺跡群墨書陶磁器集成の作成を優先して開始した。データ集成のためのアルバイトは博多遺跡群に近く、資料が充実していることから福岡大学考古学研究室へ依頼した。しかし福岡市にも緊急事態宣言が発令されたことでアルバイト依頼や作業開始が数ヶ月遅れ、データ入力作業も当初の予定より遅れが生じている。データ入力作業は令和3年度後半より実施が可能となり、オンラインによる確認を取り入れ、入力アルバイト体制を強化してスピードアップを目指している。 昨年度にはオンライン開催された国際学会に参加し、中国で発行される学術誌への投稿を試みる等、海外の研究者とは積極的な連携維持を行い、中国・広州市で出版されている学術雑誌へ墨書陶磁器の論文掲載される等の評価を得たように、海外との交流は継続している。だが出土資料データの実見確認ができないため、海外データ収集の面でもやや遅れが生じている。日本国内でも学術情報交流に努力し、特に資料集成作業を進行中の博多遺跡群については、第221次調査と遺跡群の情報収集を継続している。第221次調査では石積み遺構が発見され、その延長線にある未報告資料についても整理が進められているという情報を得ることができた。これについては未報告の調査地点の墨書資料の実見調査を行う等成果も得たが、調査の結果、予想外に資料が多く、今後の資料集成作業にはさらに時間がかかることが予想される。以上の理由から進捗状況にはやや遅れが生じている。なおデータ収集作業に遅れによって生じた時間には、日中間の貿易に関わる研究を深めるため、背後に貿易商品が予想できる入元僧として中巌円月の予備研究に着手した。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究では日本国内での資料集成の推進として博多遺跡群墨書資料集成を進めたいと考えている。博多遺跡群については平成12年度分までの墨書集成が存在するが、その後すでに20年が経過している。さらに昨年度終了した第221次調査は遺跡群でも最大規模の発掘であり、石積み遺構等中世の港湾遺跡が確認され、多数の墨書陶磁器が出土している。令和3年度より集成作業を開始し、以前のデータの再整理より開始し、本年度には未集成部分のデータ集積に取りかかりたい。なお平成12年までの墨書資料集成については、刊行者とも連絡し、集成作業の協力先への依頼も行っている。 2021年度承認の中国・泉州市の世界遺産を構成する安渓青陽下草埔冶鉄遺址と泉州南外宗正司遺址の考古学調査報告書に墨書陶磁器資料があり、このうち泉州南外宗正司遺址出土墨書陶磁器の考察を本年度に取り組みたい。ここの墨書内容には皇族が居住する南外宗正司となる以前におかれていた水陸寺関連の墨書も多い。同じく福建には福清少林寺遺跡出土の墨書陶磁器があり、寺における墨書陶磁器という視点からも重要である。また泉州世界遺産の構成遺産には泉州市舶司遺跡もあり、この報告書の刊行についても期待したい。泉州を含めて、中国福建省では墨書陶磁器の報告が複数カ所にのぼるため、遺跡ごとの検討を進めるとともに、福建省出土墨書陶磁器のデータベース化への指針も考えていきたい。 コロナウイルス感染対策が緩和され次第、中国及び東南アジア等海外での墨書陶磁器出土状況の実見調査を開始するが、現在の状況が続く場合には日本国内での墨書陶磁器及び関連遺跡調査を推進したい。特に沖縄にはこれまで墨書陶磁器の発見がないが、中国で陶磁器に墨書する習慣があった14世紀後半に始まる琉球の久米村には墨書陶磁器が存在する可能性がある。そのため沖縄と日本製山茶碗に墨書が見られる三重県安濃津遺跡に注目している。
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Causes of Carryover |
本研究の当初の予定では中国及び東南アジア地域で出土した墨書陶磁器の実見調査により出土データの集成を目指していたが、コロナウイルス感染対策により海外調査の実施は現在まで難しい状況にある。この状況に対応し、日本国内の墨書陶磁器出土遺跡の実見調査を計画したが、令和3年度前半には緊急事態宣言により国内出張も難しい状況が続いた。以上の理由により旅費において次年度使用額が発生した。 また資料集成においては、これも海外調査ができない状況から、国内資料である博多遺跡群墨書陶磁器集成の作成を優先して開始した。このデータ集成のためのアルバイトは博多遺跡群に近く、資料が充実している福岡大学考古学研究室へ依頼した。しかし福岡市にも緊急事態宣言が発令されたことでアルバイト依頼や作業開始が数ヶ月遅れることになった。この遅れから次年度にもアルバイト費用を確保する必要が発生した。以上が次年度使用額を生じた理由である。今後の使用計画としては、海外現地調査が可能になれば海外での現地調査を実施し、墨書陶磁器データの収集を推進する。国内調査については昨年度後半より調査出張を開始しており、今年度も博多遺跡群等の実見調査を実施する。墨書陶磁器集成データ入力作業も令和3年度後半より実施を開始していて、今後も体制強化して継続する。また集成作成のため福岡市埋蔵文化財センターでの墨書陶磁器確認調査を予定し、現地担当者と計画中である。
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Research Products
(4 results)