2022 Fiscal Year Research-status Report
宮中儀礼にみる17世紀朝鮮の対清観に関する基礎的研究
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20K00927
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Research Institution | Kurume University |
Principal Investigator |
桑野 栄治 久留米大学, 文学部, 教授 (80243864)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 朝鮮後期 / 朝清関係 / 粛宗 / 康熙帝 / 望闕礼 / 大報壇祭祀 / 習儀 / 明清交替 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、17世紀における正月元旦・冬至・聖節(皇帝の誕生日)の望闕礼(遥拝儀礼)の実施状況を整理・分析することにより、粛宗代(1674~1720年)における朝鮮の対清観を宮中儀礼の側面から検証するものである。具体的には基本史料の『朝鮮王朝実録』『承政院日記』のほか、議政府官員の動静を記録した『議政府謄録』、議政府をしのぐ最高議決機関となった備辺司による『備辺司謄録』、儀礼と外交を管掌する礼曹で作成された『勅使謄録』、礼曹管轄下の承文院に架蔵される謄録類を集成した『同文彙考』など、各官庁の謄録類を中心に望闕礼の期日決定、習儀(リハーサル)、実際の挙行の有無に関する記録を収集し、基礎的データを構築している。 令和4年度はこの作業をほぼ終え、以下の2点が判明した。第一に、粛宗代に清使が漢城滞在中に名節を迎えた場合、望闕礼の実施形態は3類型化することができる。(ⅰ)文武百官は予定どおり議政府にて習儀を行うが、名節を迎える前に清使が漢城を離れると、国王と百官が望闕礼を実施したとの記録は確認できない。(ⅱ)清使が宿所の南別宮にて望闕礼を挙行する意向を示せば、王宮昌徳宮の正殿では百官が略式の権停礼を執り行う。(ⅲ)清使が都合により望闕礼を辞退すれば、昌徳宮での権停礼も停止する。つまり、たとえ清使が漢城に滞在中といえども粛宗が王世子以下、宗親と百官を率いて康熙帝のために望闕礼を実施することは一度もなかった。第二に、朝鮮王室の不幸、国王の病気、大臣の急逝のほか悪天候の場合には、特例として望闕礼の習儀は停止された。臣下は永世遵守の基本法典である『経国大典』の規定にしたがい、事前に習儀を済ませるほかなかった。しかし、習儀の欠席者が「百隷怠慢の習い」としてしばしば論駁されるにもかかわらず、望闕礼当日の百官・監察による不手際がまったく挙論されないのは、名節の望闕礼が空文化していたためだと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
科研費3年目の令和4年度は、17世紀朝鮮の対清観に関する研究成果の一部として、当初の研究計画では「第1章 清使の入京と望闕礼」「第2章 望闕礼の習儀」として設定していた、清朝使節往来時における望闕礼の実施状況、ならびに文武官僚による習儀の実態に関する分析結果について、大幅に加筆修正のうえ、本学の紀要論文集に掲載した(桑野栄治「朝鮮粛宗代の宮中儀礼にみる朝清関係(上)」『久留米大学文学部紀要(国際文化学科編)』第39号、2023年3月、pp.1~46)。また、その成果の一部は第73回朝鮮学会大会(2022年10月2日、天理大学、オンライン開催)の研究発表会第3部門(歴史学・考古学・文化人類学・その他の分野)にて報告した。 ただ、初年度の令和2年度以来、当初の研究計画では予期できなかった新型コロナウイルスが蔓延した。感染症流行の終息がまったく見通せないまま、文献史料調査として当初より計画していた海外出張(ソウル)はもちろん、感染状況が拡大する首都圏(東京)・関西圏(大阪)への国内出張も自粛せざるをえなくなった。昨秋の全国学術大会さえ対面形式ではなくZoomを用いたオンライン開催となり、研究成果報告のために計上していた国内旅費(奈良)さえ支出不要となった。 ようやく行動制限も緩和されつつあることから、補助事業の目的をより精緻に達成すべく、事業期間を令和5年度まで1年間、延長することとした。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の研究計画では、粛宗の在位期間(1674~1720年)が46年におよぶ長期政権であるため、データの整理・分析は時間を要するであろうと想定していた。そこで、最終年度に設定していた令和4年度もひきつづき粛宗代における望闕礼の実施状況に加え、粛宗30年に創設された大報壇祭祀の実施状況に関する記録とあわせて逐一パソコンに入力し、基礎的データのさらなる構築に努めた。その結果、令和5年5月現在、大報壇創設以後、粛宗が死去する粛宗46年までの望闕礼に関するデータ整理と分析はほぼ終えている。 その過程で粛宗30年以前の朝鮮王室儀礼と対清観に関しては、科研費初年度の令和2年度に「朝鮮粛宗代の王妃冊封にみる朝清関係」、次年度の令和3年度に「朝鮮粛宗代の王世子冊封にみる朝清関係」の論考を中間報告として公表した。また、当初は最終年度に設定していた令和4年度には「朝鮮粛宗代の宮中儀礼にみる朝清関係(上)」として「第1章 清使の入京と望闕礼」「第2章 望闕礼の習儀」からなる論考を公表済みである。よって、令和5年度末までには粛宗代における望闕礼ならびに粛宗30年に始まる大報壇祭祀の運用とその意義について総括し、当該期における宮中儀礼と対清観に関する研究成果を「朝鮮粛宗代の宮中儀礼にみる朝清関係(下)」として公表できるものと思われる。 具体的には、「第3章 不法越境問題とその波紋」として粛宗16年に朝中間の国境地帯で発生した朝鮮人不法越境問題、ならびに儒者官僚による清使迎接儀礼の拒否を、「第4章 大報壇祭祀と望闕礼」として王室庭園にて朝鮮国王が大明皇帝を祀る大報壇祭祀の実施状況と望闕礼との関連様相を、最後に「第5章 王世子の代理聴政と清使迎接儀礼」として粛宗43年の王世子(のちの景宗。在位1720~24年)代理聴政時に入京した清使接待儀礼をめぐる動向に細心の注意を払いつつ、研究論文の執筆に取り組みたい。
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Causes of Carryover |
科研費初年度の令和2年度以来、研究計画当初の時点ではまったく予期できなかったコロナ禍により、令和3年度につづいて令和4年度もまた文献史料調査を目的として計画していた海外出張(ソウル大学中央図書館など)をはじめ、新型コロナウイルスの感染状況が深刻な首都圏(東京大学附属図書館)や関西圏(大阪府立中之島図書館)への国内出張さえ自粛せざるをえなかった。そこで、令和5年度に繰り越される助成金については、令和2年度以来自粛を余儀なくされていた首都圏と関西圏のほか、中京圏(名古屋市蓬左文庫)への出張旅費を文献複写費(マイクロフィルム撮影費を含む)とあわせてあらためて予算に計上し、また研究図書費(朝鮮近世政治外交史関連図書)を増額して対応するなど、使用計画については引きつづき再考せざるをえない状況にある。
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Research Products
(2 results)