2021 Fiscal Year Research-status Report
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20K00934
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Research Institution | Yokohama National University |
Principal Investigator |
多和田 雅保 横浜国立大学, 教育学部, 教授 (10528392)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 地方都市 / 町共同体 / 近世 / 自然環境 / 自然環境 |
Outline of Annual Research Achievements |
「現在までの進捗状況」でも述べるように、2021年度は2020年度に引き続き新型コロナウィルス感染症の拡大の影響を受けてやや遅れがみられ、公表すべき成果をもっていないが、本研究計画が対象としているフィールドのうち①信濃国北部の都市群については、幕府代官所の陣屋元村として都市化を遂げていた中野村(現中野市)と、周辺の数十か村とにまたがって1000人の規模で存在した大規模商人集団の構造についてかなりの程度考察を進めることができた。その結果、同集団が実質的には荒物商、小間物商、菓子屋の複合からなっていること、中野村を拠点とする数十人の親分と中野村や周辺の村々に分厚く存在する身内との個別関係を包含するかたちで仲間が結成されていたこと、親分が商人を宿泊させる宿としての機能を有しており、その経営を核として商品が流通したことなどを見出すことができた。以上については論文化にむけて現在作業を進めているところである。またフィールド②信濃国北部の城下町飯田についても、都市と周辺農村とにまたがる社会構造について、屋敷や耕地などの地片の機能に注目することでこれまでの研究成果をまとめ直し、単著の公表にむけてかなり研究を進展させることができた。本研究計画の主題である町共同体は周辺世界に開かれた場としての町屋敷を単位として形成され、ヒト・モノ・カネ・情報がしきりに出入りする空間として不安定な性質を持っており、それゆえに秩序を維持する必要が生じて共同体が形成されたのであり、上記①②の考察は共同体の性質を考察するうえで不可欠なものとして位置づけることが可能である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究計画は現在の長野県域に含まれる①信濃国北部の都市群、②信濃国南部の城下町飯田、③信濃国南部の松島村と木下村と、現在の神奈川県域に含まれる④相模国の小都市群の4か所をフィールドとする。このうち④については2020年度研究に従事し、一定の見通しを得たため、2021年度は①②③のフィールド調査を中心に研究を進める必要があったが、新型コロナウィルス感染症の収束が見込めず、まったく現地調査を行うことができなかった。 そのため2021年度は、短期雇用により研究代表者の研究室に所在するデータ(おもに④を含む神奈川県域の歴史資料情報)の整理を進めつつ①と②について研究を進め、とくに②については2020年度に引き続き、城下町飯田と周辺社会との関係性に注目した単著の刊行準備を進めた。 なお、研究を進めるなかで、地方都市における町共同体の性格を考察するためには、巨大都市における町共同体との比較を行う必要があることがあらためて認識された。これまでの町共同体の性格に関する研究は、巨大都市において集中的に取り組まれてきており、史料も多く残されているからである。そこで2021年度は巨大都市のなかでも質量ともに豊富な内容を持つ刊行史料『京都町触集成』を購入することで、研究の基盤を整えた。 また、都市共同体における自治の性格を考察するためには、史料を用いた歴史研究のアプローチだけでは不完全であり、都市社会学を中心とした隣接分野のアプローチ方法を学ぶ必要があるとの考えに到達した。そのためマックス・ヴェーバーやゲオルグ・ジンメルなどの文献を集中的に購入し、理論的考察を深めるための基盤を整備した。 以上のように新型コロナウィルス感染症に対応する方向で研究に取り組んだが、フィールド調査ができなかったことの影響は大きく、2021年度も研究費の一部を2022年度に繰り越さざるを得なくなった。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き、新型コロナウィルス感染症の感染状況によって影響されるところがあり見通しが立ちにくいが、フィールド調査が可能となったら①②③の現地に赴き可能な限り調査を進めたいと考えている。ただし、万が一現地でのフィールド調査が困難な場合には、2021年度に購入した書籍を用いて理論的考察を深めるなど、柔軟な対応をとる必要があることも想定しておきたい。
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Causes of Carryover |
本研究計画は、長野県域を主な対象としたフィールド調査を主体とするものであるが、新型コロナウィルス感染症の拡大を受けて現地調査を行うことができなかったため。 次年度は新型コロナウィルス感染症の状況にもよるが、フィールド調査を可能な限り再開することで計画遂行を少しでも進めたいと考えている。
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