2020 Fiscal Year Research-status Report
近世山里の生業・流通・支配に関する構造論研究―列島4地域の比較類型から―
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20K00937
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Research Institution | Naruto University of Education |
Principal Investigator |
町田 哲 鳴門教育大学, 大学院学校教育研究科, 准教授 (60380135)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
羽田 真也 飯田市歴史研究所, 研究部, 研究員 (40757837)
後藤 雅知 立教大学, 文学部, 教授 (50302518)
森下 徹 山口大学, 教育学部, 教授 (90263748)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 山里 / 近世 / 村落 / 森林 / 流通 / 社会史 / 地域史 / 幕藩体制 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、列島社会の山里とその生業が多様な展開を持っていた点を重視し、近世において特徴をもった以下の4地域を選定する。A焼畑耕作など多様な生業から「林業地帯」へと変貌した阿波・木頭地域(担当:研究代表者・町田哲)、B巨大都市江戸への薪炭供給地であった房総・養老川流域(研究分担者・後藤雅知)、C列島各地への有数な材木供給地であった南信濃・天竜川中流域(同・羽田真也)、D藩の専売制の中で、西日本有数の紙生産地となった周防・山代地域(同・森下徹)である。各地域の一次史料を調査・分析し、その特質を内在的に解明することを開始した。 まず初年度は、近世山里研究の成果と課題を考察した上で、4つのコア地域の調査研究を進めた。とくに科研メンバーを中心とする「山里の地域史研究会」を4回実施し(オンライン)、各地域での調査研究の成果を共有した。論文・図書の発表成果としては、まず森下は『全体史へ―山口啓二の仕事』の中で、山口啓二氏の研究をもとに、近世幕藩体制全体の原理と地域社会の自律的な展開とを相互規定的な関係で捉えることの重要性を指摘した。山里を近世社会全体の中で捉える上でも重要な方法論的提起である。また後藤は、B地域に即して、農業の比重が低い山間の村における質地請戻慣行や土地所持の意味を問い、また岩槻藩房総分領で林守を務めた家の家督相続・嫁入り・養子相続の特徴を明らかにした。羽田もC地域の、組と同族集団に注目し村内の共同関係のありようを探った。こうした山里内部の社会関係を解明する点は、各地域の特徴を解明する上で不可欠な視点である。なお、町田は、A地域における独特の森林類型である「取山」の実態を再考した。 以上のように初年度は、方法論の研磨をもとに、各地域において基礎的な調査研究を進め、着実な成果をあげることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究事業は、(1)コア地域(ABCD)の調査研究、(2)山里の地域史研究会、(3)学界・社会への成果還元の3つによって構成されている。 このうち(1)については地道な調査研究を進め、論文発表も着実に果たすことができた。(2)についても科研構成メンバーを中心に年4回実施して、調査研究の成果共有を図ることができた。各地域の共通性と差異を鮮明にすることで、山里社会の歴史的展開の背景にある環境・条件や、変化の要因を浮き彫りにする手がかりを、一定程度得ることができたと考える。また(2)では、研究史についての検討も進め、地域社会論を基礎とした山里社会の分析方法を共同で鍛え上げる場ともなった。今後、中堅・若手の研究者の参加を広く呼びかけるようにしたい。 一方、(3)について、各地域の文書調査は着実に進めることができた。また『湯浅家文書調査報告書』(A地域)の刊行にむけたデータ整理等も順調に進めている。しかし、COVID-19感染拡大をうけ、メンバー相互の調査レベルでの交流や、研究対象地での「現地報告会」「古文書展」等の対面実施が不可能となった。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の目的は、列島日本の山里地域を素材に、近世日本の森林資源をとりまく生業と流通の構造について、①山里における所有と生業の実態、②森林資源をめぐる藩の支配関係、③〈山里―流域―都市〉を結ぶ森林資源の流通構造という3つの地域史的視角から解明することにある。その際、とくにⅰ多様な森林資源を利用・管理してきた社会的諸関係を構造的に把握し、ⅱ森林資源の維持・収奪をめぐる地域社会の変化を、18-19世紀における支配構造・市場構造との関連の中で解明したい。 今後にむけて、とくに2年目は以下の点に力を入れたい。 (1)コア地域(ABCD)の調査研究としては、予定通り、各地域の山里の生業と社会的諸関係の解明を中心に、分析を強力に前進させる。 (2)山里の地域史研究会については、2ヶ月に1回のペースで実施し、オンライン実施をプラスに捉え、本研究の代表者・分担者に限定せず、中堅・若手の研究者の参加を広く呼びかけるよう努力する。またその内容も、研究報告のみならず、研究史整理、史料読解等、多様なあり方を模索する。 (3)学界・社会への成果還元は、まず『湯浅家文書調査報告書』(A地域)の刊行をめざし、目録作成を遂行する。COVID-19感染拡大をうけ、今後は、各地域において可能な限りの調査研究をメンバー各自が続ける一方で、調査報告書の刊行やオンライン・シンポジウムの開催など、柔軟な形での成果還元を目指していく。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルス(COVID-19)の感染拡大に伴い、「山里の地域史」研究会はオンラインとなり、かつ本来予定していた調査地での複数名による古文書調査交流および現地報告会については、やむをえず延期せざるを得なかった。そのため、旅費として利用する予定が減少したため、残額15980円を生じる結果となった。2021年度も旅費執行分は減少する予定であるが、各地域内における個人による調査を拡充させることで、さらなる研究活動の充実化を図る。
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Research Products
(13 results)