2021 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
20K00940
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Research Institution | University of the Ryukyus |
Principal Investigator |
前村 佳幸 琉球大学, 教育学部, 准教授 (10452955)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 近世琉球 / 廟議 / 宗廟 / 太廟 / 寝廟 / 神主 / 昭穆 / 尚家文書 |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度は二年目で研究計画の前半にあたる。近世の琉球に関わる、首里王府と先島における政庁である蔵元で作成・発給・記録保管された史料に対する料紙の観察と紙片試料の分析を本格化する計画であった。しかしながら、前年同様の新型コロナウイルス感染症拡大の状況下、宮古島市総合博物館や八重山博物館そして那覇市歴史博物館での修復提案型の料紙調査はもとより原本の閲覧も実現しなかった。 そこで、研究室内で可能な文献史料の読解に専念し、近世における中国的宗廟制度の受容と変容を示す、「咸豊八年より同治元年迄 僉議」(尚家文書第四四七号)における中国での宗廟制度を整理抜粋した「廟制求教」の全文を翻刻しつつ、入場制限下閲覧が可能であった中国典籍の典拠を確認し、円覚寺と首里城にそれぞれ建立された太廟・寝廟をめぐる議論の基礎的理解をはかった。また、『球陽附巻』や島津家文書を通して尚寧王・尚豊王と薩摩側との関係を再検討し、評定所格護本『中山世鑑』『中山世譜』(沖縄県立博物館・美術館所蔵)の系図と関連づけることにより、第二尚氏王統の開祖尚円王から見て同一世数の両国王の立場とその後の宗廟祭祀における扱いの特徴を明らかにした。さらに蔡温の時代について、「琉球国要書抜粋」(『石室秘稿』国会図書館憲政資料室蔵)一および「琉球関係文書」(島津家国事鞅掌史料 島津公爵家編輯所旧蔵)、『中山世譜』(那覇市歴史博物館所蔵、尚家文書第一一九六~第一二〇七号)・外附巻(第一二〇八~第一二一五号)を主史料として、史書と系図、三つの寺院の内部における歴代国王・王妃と王族を祀る廟所の機能分化をめぐる廟議を整理した。上記の成果は論文としてまとめられている。 料紙分析については、近世の料紙の比較材料として活用するために現代になって復元された沖縄の芭蕉紙・青雁皮紙を入手することができ、顕微鏡分析のための試料を確保した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受け、宮古・八重山両先島地方における史料の実物調査が全くできなかった。本年度三月末に鹿児島県における古文書・古典籍の料紙研究に関して、鹿児島県歴史資料センター担当者と意見交換を行い、和紙抄造の現状を調査した。このような状況下、「旧琉球藩評定所記録」(『琉球王国評定所文書』浦添市教育委員会)の内容面から近世琉球と島津氏間を往来した文書の多様な様式と料紙について情報を集成し、実物に即した調査への移行を模索している。また、近世琉球士族層の家譜と関連資料についても実地調査ができなかった。そこで、史学的研究の進展をはかり、「琉球国王尚家関係資料(尚家文書)」の複製本を利用して、近世における中国的宗廟制度の第二尚氏王統における受容と変容の実態解明を課題として、系図写真や翻刻した僉議資料を通して検討を進め、論文を公開した(一部査読・執筆中)。
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Strategy for Future Research Activity |
第二尚氏王統の宗廟制度とそのあり方をめぐる王府の議論について、尚家文書などを精読して、具体的な検討成果を論文として発表する。並行して、王府の家臣団を構成した首里・久米村・那覇・泊および先島地方の士族層の婚姻や養子縁組など社会的なあり方について、未翻刻も含む家譜を主史料として理解を深める。 近世琉球と薩摩との関係に即して往来した文書の目的内容と料紙の関係を文献資料から整理し、具体的な調査対象を絞り込む。 料紙の顕微鏡分析に不可欠のC染色液の再調合を行い、研究代表者所属研究機関の琉球大学研究基盤センターの最新機器VHX-7000(キーエンス社)の操作を習得し、既に入手済みの試料の分析データを得る。 状況に応じて史料収蔵先と調整をはかり、先島地方など沖縄県内における古文書・古典籍について、修復にともなう試料抽出を行い、料紙繊維の顕微鏡分析と撮影を行う。 実地調査が本研究の根幹をなすが、感染症拡大対策に最大限配慮した上で実施可能な課題を確実に進展させる。
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Causes of Carryover |
前年同様の新型コロナウイルス感染症拡大により、計画していた実地調査ができず、旅費は入場可能であった一件のみであり、修復事業委も実施できなかったので、次年度使用とした。
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Research Products
(2 results)