2023 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
20K00940
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Research Institution | University of the Ryukyus |
Principal Investigator |
前村 佳幸 琉球大学, 教育学部, 准教授 (10452955)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 近世琉球 / 宗廟 / 料紙分析 / 尚家文書 / 士族 / 家譜 / 跡目僉議 / 先王廟 |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度は、料紙調査や各公蔵機関収蔵資料の調査を行うことができるようになり、九州南部から先島地方にいたる古文書・古典籍類に対する料紙については、宮古島市総合博物館や東京大学史料編纂所収蔵の資料について料紙研究・歴史研究双方にとって新たな視点と方向性を見出すことができた。宮古島市の旧家にある料紙について修復事業を行い、C染色液を調合し、研究代表者所属機関の琉球大学研究基盤センターの光学顕微鏡VFX-7000(キーエンス製)を用いて料紙サンプルの分析撮影を行った。また、奄美大島の「大嶋之一条」原本について、所蔵先の東京大学史料編纂所にて調査し、料紙について一定の所見を得た。 近世琉球史の分野では、人的に王府を支えた士族層に関する研究のために、尚家文書422~436号「跡目僉議」読解に着手し、家譜や跡目僉議史料による事例研究を行っている。その際、那覇市歴史博物館より図像データを取得し(新城家文書・小橋川家文書)、家譜の内容に加えて士族層が所持・保管してきた文書・記録類を活用した研究を行った。家譜悉皆調査の一環として、琉球大学附属図書館所蔵の家譜影印本の収蔵状況をリスト化した。さらに、最後の国王尚泰の時期に確立した宗廟制度に関する研究成果の体系化を進めている。宗廟と家譜については、これまで別々に取り上げられていたが、本研究において首里王府が整備してきた制度として積極的に位置づけることにより、近世琉球の歴史的理解を進め、日本や東アジアとの比較検証に資する具体的かつ体系的な認識を構築する展望が開けると考えている。上記の成果は論文3篇にまとめられている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
近世宮古島の政庁蔵元の幹部大首里大屋子(頭)に関する家伝資料の修復事業を行い、料紙サンプルを得て顕微鏡観察したところ、イネ科の繊維が配合されていることが判明した。ワラなどを入れた紙が近世琉球に存在したことになる。李鼎元の『使琉球録』(1802年刊)に「棉紙」「清紙」などが言及され、穀(ワラ)や木皮を原料としているという記述(巻6)があり、コウゾやバショウ、アオガンピ以外の原料についても視野を広げることができた。首里王府の国王祭祀施設である宗廟について史料の読解が進展しており、崇元寺先王廟を課題として残すが、宗廟の制度的展開と琉球の特性について体系化する目途がついた。並行して王府の家臣団を構成した士族層について家譜や文書類を利用した事例研究を展開している。以上により、古文書古典籍の料紙的領域と内容読解に基づく文献史学の領域の両面において進展が見られた。
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Strategy for Future Research Activity |
本最終年度においては、先島地方における実地調査によりアオガンピを原料とした料紙の確認をはかり、当地の料紙サンプルの顕微鏡分析や密度などの調査所見を示す。近年、宮古島市総合博物館に寄せられた古文書類について保存状態と内容の調査を行う。さらに、家譜に加えて市町村史などで翻刻されながら、その後当該地域にない資料について、所在と状態の把握に努め、修復支援事業を提案して原資料の保全と再活用を進める。奄美大島瀬戸内町における情報収集に努めるとともに、東京大学史料編纂所関係者と共同して「大嶋之一条」原本料紙について検討を進める。 近世琉球史の研究分野においては、国王祭祀をめぐる尚家文書第438号・442号・447号における僉議史料に依拠し、首里系士族出身で官生として北京の国子監で学んだ東国興(津波古政正)の関与に焦点を当てつつ、中国の典拠を含め総合的に検討し、その成果を論文としてまとめる。また、尚円王の即位前の由緒のある土地や一族について、文書類と実地調査を通して近世の首里王府による王統認識を検討する。舜天から先代国王までを祀る崇元寺先王廟について、尚家文書や冊封使の見聞録などを用いて祭祀空間としての諸相を明らかにする。これにより、近世琉球の王権と深く関わる宗廟制度について総合的体系的な理解を提示する。 近世の首里王府がいかに家臣団を維持してきたのか、士族層がどのように立身と家系存続をはかってきたのか、この問題に関する基礎史料としての家譜史料について、検索可能なデジタルアーカイブスの構築を目指している。そのため家譜や士族の事例研究では、那覇市史資料篇未収録の家譜全文の翻刻を並行して行っており、これを継続する。なお、尚家文書422~436号「跡目僉議」は地頭職と知行高の継承・変更に関する史料であり、全体の読解を進める上記史料の内容面を複合的に検討することにより、近世琉球史の新たな展望を開く。
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Causes of Carryover |
コロナ禍により実地調査を見送る状況となり、修復事業の展開も積極的に実施できず、助成資金の有効活用のため、文献史料の読解にシフトし、次年度以降に実地調査と修復事業を推進し、研究の統合をはかることが妥当であると判断したため。
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Research Products
(3 results)