2021 Fiscal Year Research-status Report
盛岡藩の北上川舟運と自然環境の利用に関する総合研究
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20K00944
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Research Institution | Tokai University |
Principal Investigator |
兼平 賢治 東海大学, 文学部, 准教授 (30626742)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 北上川 / 舟運 / 盛岡藩 / 自然環境 / 盛岡藩家老席日記雑書 / 石碑 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、盛岡藩政や領民の生活と不可分の関係にある東北地方最大の大河・北上川を研究対象とする。そして、本研究の目的は、北上川流域自治体の文化財行政に携わりながら歴史・民俗の研究を進める研究協力者5名とともに、近世における河川を中心とした自然環境の利用に関心を寄せ、なかでも北上川舟運に着目して、その実態を、新たに整理の進む史料を活用しながら明らかにすることで、先行研究を基に概説されるにとどまる現在の研究状況を克服することにある。 具体的には、北上川舟運については、舟運の現場を取り仕切る肝入をつとめた下柳千葉家の文書群を活用して実態に迫る。また、河川を中心とする自然環境と人々の生活とのかかわりについては、江戸時代を網羅する盛岡藩家老席日記「雑書」190冊の刊行が完了し、すべての記事の文字検索も可能となったことから、この「雑書」を活用し、舟運の実態は勿論、流域の人々の営みのなかに河川がどのように位置づいていたのかを究明することである。 2021年度は、前年度に引き続き新型コロナウイルス感染症が流行し、予定されていた講演会が中止されたり、現地調査やフィールドワークが大きく制限されたなか、感染状況に応じて調査を進めた。おもな研究実績としては、岩手県紫波町で研究協力者とフィールドワーク(江戸時代の河岸跡の確認と石切場の調査)と研究成果の報告会を対面で開催し、課題と成果を共有したこと、岩手県奥州市教育委員会が管理する下柳千葉家文書について概要の撮像を概ね終えたこと、データベースの充実が挙げられる。 北上川舟運に関して収集した文献・データを研究協力者と共有するとともに、盛岡藩家老席日記「雑書」の北上川を含む盛岡藩の自然環境にかかわる記事をデータベース化する作業を進めた。「雑書」の自然環境に関する記事については、天保年間(1830~)までデータベースの構築を進めることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
前年度に引き続き新型コロナウイルス感染症の流行により、出張に制限が設けられるなどしたため、現地調査やフィールドワークを実施することが困難な状況にあり、北上川の河口の宮城県石巻市(2020年度予定)と、北上川舟運で運ばれた荷物の関東の集積地であった千葉県野田市関宿(2021年度予定)で開催を予定していたフィールドワークと研究会は、実施を見送らざるを得なかった。 1年目は機材を購入し研究体制を整えることや、データベースの構築に注力することで、2年目以降の研究に備えていたが、2年目も新型コロナウイルス感染症の流行による影響を受け、出張が制限されるなどしたことから、現地調査やフィールドワークを十分行うことができず、研究の幅を広げるのに大きな支障となった。 こうしたなか、研究協力者が勤務する岩手県の自治体において、感染状況に応じて、下柳千葉家文書の撮像が実施できたこと(奥州市)、フィールドワークと研究会を開催できたこと(紫波町)は幸いであった。 このように出張などに制限があるなかで、本来、現地調査やフィールドワークに充てる作業・研究時間を、データベースの構築に振り分けることで、本研究の進捗状況を少しでも改善しようとした。前年度に引き続き、先行研究や史料の収集と分析、リスト化を進め、研究協力者にも提供して、研究を進められる環境を整えるように努めた。また、盛岡藩家老席日記「雑書」のなかの北上川を含む盛岡藩の自然環境にかかわる記事をデータベース化する作業を進めた。「雑書」の自然環境に関する記事については、前年度に18世紀後半の安永年間(1772~)まで作業を進めていたことから、残る天明年間(1781~)から天保年間(1830~)まで作業を進めた。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度は、奥州市教育委員会が管理する下柳千葉家文書の撮像を概ね終えることができ、どのような文書が残されているか把握することができた。そこで、2022年度の早い時期に残りの文書を撮像して全体像を把握し、目録化と内容の分析に努める。また、その成果を研究協力者と研究会を実施(感染状況に応じてリモートでの研究会も実施)するなどして共有化をはかることとする。 その時々の感染状況にもよるが、2022年度になって出張の制限も緩和されてきたことから、これまで延期してきた北上川の河口の石巻市でフィールドワークを行うとともに、新たに開館した石巻市博物館を訪問して北上川舟運と石巻湊に関する知見を得たいと考えている。また、北上川舟運で運ばれた荷物の関東の集積地であった関宿(千葉県野田市)でフィールドワークを行うとともに、河川に関する展示が充実している千葉県立関宿城博物館を訪問して近世の舟運に関する知見を得たいと考えている。そして、その成果を研究に反映させることとする。 盛岡藩「雑書」の記事のデータベース化については、最終巻の『盛岡藩家老席日記雑書』第50巻(天保11年、寛文6年)が2022年3月に刊行され、これをもって「雑書」のすべての記事について把握し、付属のDVDで文字検索も可能となったことから、2022年度は、これまで構築してきたデータベースにこれらの新たな情報を取り込んでデータベースを完成させ、それをもとに盛岡藩の自然環境と河川に関する研究を進めることとする。
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Causes of Carryover |
現地調査や文書の撮影に必要となる機材については、2020年度に購入して準備を進め、また、研究を推進しデータベースを構築するために必要な文献については、2020年度と2021年度に購入してほぼ揃え研究協力者にも共有化を図ったが、新型コロナウイルス感染症の影響により、2020年度、そして2021年度と出張が制限され、予定していた現地調査やフィールドワークの多くが実施できなかったこと、さらに、下柳千葉家文書の撮像についても実施回数が限られたことから、これらに充てる予定であった旅費や人件費が残ってしまったため、次年度使用額が生じてしまった。 2022年度になって感染状況も落ち着き出張制限も緩和されてきたことから、研究をさらに進めるためにも、これまで延期してきた宮城県石巻市、千葉県野田市関宿でのフィールドワークを実施するとともに、岩手県奥州市教育委員会が管理する下柳千葉家文書については残りを撮像し目録化を早期に進める必要がある。そのために必要な旅費と人件費については適正にこれを執行していく。
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Research Products
(3 results)