2021 Fiscal Year Research-status Report
近現代日本における生業と生活世界に関する実証的研究
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20K00946
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
沼尻 晃伸 立教大学, 文学部, 教授 (30273155)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 生業 / 生活世界 / 山葵 / 石工 / 日記 / 主婦 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度の実施状況報告書に記したように、コロナ禍で個人宅への史料調査・聞き取り調査が困難であるため、研究計画を一部変更し、日記史料に関する検討に加え、勤務先のアーカイブズの利用により研究可能な戦後における生活世界の変化に関する検討を開始した。上記点を踏まえた上で、本年度の研究実績の概要は、3点にまとめることができる。 第一に、静岡県の山間部に居住した人物が記した日記(『鉄五郎日記』)の翻刻の校正作業を行うとともに、戦後地域社会で活動した女性の生活世界が読み取れるミニコミの翻刻作業を行なった。また、これらの史料に関する文献収集調査を調査対象地などで行うとともに、日記史料に関する聞き取り調査を、電話にて行った。その他、上記以外の日記史料とその周辺史料を所蔵している尼崎歴史博物館尼崎アーカイブズやその他の図書館などを訪問し、資史料調査と必要な文献に関する写真撮影・複写を行った。 第二に、昨年度学会報告を行った『鉄五郎日記』に関するを分析について、対象時期を戦間期に絞り、研究史の整理を通じて課題を位置づけ直すとともに、昭和恐慌期における泊まりがけの「雇われ仕事」に出た際の事情に関する実証を加えて、学会誌に投稿した。また同日記を用いての、日中戦争期からアジア・太平洋戦争期にかけての生業と生活に関する検討を、戦時動員と関連づけて開始した。次年度に学会報告を行う予定である。 第三に、戦後において家族の外側に新たな生活世界を築こうとした主婦による諸運動に注目し、彼女らが創出しようとした生活世界とそこでの正当化の論理を検討した。また、そのことと、1970年代における少数者による運動の正当化論理とを比較検討することの重要性を認識するに至り、そこでの論理を示す言葉として「人間」に注目した公開セミナーを社会運動史・雇用関係史研究者を招いて開催し、外部からの批判を仰いだ。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナウィルスの感染拡大により、本年度の夏休み期間に当初予定していた個人宅を訪問しての資料収集調査・聞き取り調査がほとんどできない状態となり、また公共図書館においても閲覧時間の制限や閲覧座席の制限など、資料収集に支障をきたす事態に陥ったため。そのため、本研究課題の研究計画・研究方法の一部変更を余儀なくされ、変更した課題に即して改めて資料収集を開始せざるを得ない状況に至ったため。
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Strategy for Future Research Activity |
当初予定していた、複数の日記史料の比較検討を通じて生業と生活世界を追究することは、その際に必要となる高齢者への聞き取りを含む個人宅への調査訪問が現状では困難であり、このことは次年度も継続する可能性が高いため、拙速にこの調査を行うことは避ける。その上で、以下の2点に関する研究を進める。 第一に、日記史料を用いた生業と生活世界に関する研究に関しては、『鉄五郎日記』の分析を学術論文として発表するとともに、その内容に関する精緻化・体系化を優先して進める。そのために必要な資史料の撮影や文献複写などを公共図書館・文書館などで行うが、特に主要な生業であった茶や山葵などの生産・出荷に関する資料収集と分析をさらに進めるとともに、「雇われ仕事」を規定する公共事業に関する一次史料の収集と分析を進める。また文書館などで所蔵する上記日記以外の日記史料に関する調査も併せて行い、新たな史料収集を進めることで、コロナウィルスによる感染が収束した際に複数の日記の比較検討がスムースに行えるように準備する。 第二に、本年度より開始した、主に第二次世界大戦後において(萌芽的には第一次世界大戦以後)家族の外側に新たに築かれていった生活世界に関する実証的研究を継続して進める。このテーマに関しては、立教大学共生社会研究センターをはじめとする公的機関が所蔵する資料収集(資史料の撮影、文献複写など)を進め検討を行い、学会報告などの研究発表を行う。
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Causes of Carryover |
コロナウィルス感染拡大が進み、当初予定していた史料調査及び聞き取り調査を行うことができなくなったため。また、そのことに付随して予定していたアルバイトによる聞き取り調査補助やデータ整理が執行できなかったため。 今後の使用計画としては、コロナウィルスの感染拡大が一定程度収束する(あるいは小康状態を保つ)ようであれば、これまで十分に実施できなかった日記研究と家族の外側に築かれていった生活世界に関する研究に関わる資史料調査を実施するとともに、そのことに付随して必要となる調査補助やデータ整理補助などの業務を担うRAやアルバイターの雇用に用いる。同時にこれらの調査によって、新たに必要となった図書・文献類を購入・複写するなどして収集する。収集した資史料の検討に基づき研究を進め、学会報告や学術論文などによって成果を発表する。 また、コロナウィルスの感染拡大が進行した場合には、その程度によって使用計画を再検討するが、資史料調査が行い難い場合には、既に収集した資史料で可能となる『鉄五郎日記』に関する研究の取りまとめを進め、同時に当初設定した対象地域以外も含めた当該研究テーマに関連する内外の刊行物の収集を広く進めるとともに、勤務先のアーカイブズなどを利用することによって本研究課題に必要となる資史料を収集し、それらの検討を進める。
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Remarks |
2022年2月19日に公開セミナー「「人間」「にんげん」と1970年代の社会運動」(立教大学共生社会研究センター主催、オンラインにて実施)を開催し、そこでの組織者と趣旨説明の役割を担うとともに、研究成果に関する外部からの意見・批判を仰いだ。
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