2021 Fiscal Year Research-status Report
A Research of SAKAMOTO Area in OHMI Province during 15-17th Century
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20K00948
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Research Institution | Kanazawa Gakuin University |
Principal Investigator |
石崎 建治 金沢学院大学, 文学部, 教授 (10257496)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
本多 俊彦 金沢学院大学, 文学部, 准教授 (80410281)
戸根 比呂子 金沢学院大学, 文学部, 講師 (10846710)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 近江坂本 / 比叡山延暦寺 / 中世都市 / 絵図史料 / 貨幣流通 / 中近世移行期 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究代表者の石崎建治(金沢学院大学文学部)は本年度における研究の一端として、近江坂本を含む琵琶湖水運が媒介した、年貢米輸送における北陸と京都周辺市場権との連動性について考察し、その成果を「中世後期北陸における五山系臨港型荘園の展開と室町期荘園制-臨川寺領加賀国大野荘の事例から―」(『金沢学院大学紀要』第20号、2022年3月、査読付き、単著)としてまとめた。 論文自体の要旨は以下のとおりである。すなわち中世後期の大野荘は、新たに荘園領主となった臨川寺が相博や一円化、守護不入地化によって荘園経営・荘園支配の効率化と強化を図り、幕府・朝廷による度重なる手厚い保護がなされた結果、一般的に荘園衰退期とされる南北朝期にむしろ荘園支配が確立し強化された。全国的に代銭納化や為替送金化が拡大する傾向の中で、臨川寺が幾多の障壁を排除してでも現物納に固執した要因としては、京都米価の相対的高価とその売却益の獲得が挙げられる。大量の年貢米輸送を可能とした大野荘特有の前提条件として、まず本荘園が室町幕府が特段の保護を加える五山系禅院領荘園であった点、早期に一円領化を達成し応安大法の対象となった点が挙げられる。この論文中で七ヵ関など坂本関連の関所を取り上げ、また比叡山延暦寺の強い関与について言及した。 この研究成果により、今後の研究展開が、当面の対象とする坂本とその周辺地域の研究の進展のみならず、北陸と今日と結ぶ流通史研究への活用においても有益であることを示し得たように思われる。逆に本研究においては、さらに視点を広げ、西日本の流通との関連性にも留意しながら、調査を進めていく必要があることを改めて認識した。この成果や視点は研究分担者や研究協力者にも共有済みであり、研究者各個の研究推進にも活用を促していきたい。なお当該論文は停滞著しい北陸地域の荘園史研究にも一石を投じることができたように思われる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度も依然、コロナ感染症流行拡大に伴い、県境をまたぐ移動が一般的に厳しく制限され、また教員として学生への2次感染を予防する観点から、研究出張に対して慎重かつ抑制的な姿勢を取らざるを得なかった。 しかし、そのなかでも、8月には4回にわたりオンラインによる研究会を開催した。まず研究者間の打ち合わせと研究上の進捗状況の確認、今後の展望について意見交換を行った。の後寛永通宝の基礎的史料を精読し、先行研究の見解や言及に対する検討を行い、いくつかの点で新たな見解を打ち出せる可能性を発見した。また著名な基礎史料の一部については、史料的批判の手続きを経ずに、無条件に利用されていることが判明した。そのため、厳格な史料批判を改めて施し、史料的信憑性や成立経過、史料的性格などを再度厳重に検討すべきであるとの結論を得た。 さらに研究チームに臨時に考古学の研究者を招聘し、銭鋳造遺跡の出土状況を再検討したところ、寛永通宝の鋳造に関して、この方面からの真相解明が可能であるとの感触を得た。 現地調査も不十分ながら、2回実施することができた。研究代表者である石崎がまず10月下旬の予備的な調査を行い、また地元協力者との意見交換を行った。3月下旬には叡山文庫での史料閲覧にようやく着手できた。また、改めて近世初頭と目される絵図と坂本地域内の現況との比較調査を行った。このほか、大津市の埋蔵文化財発掘調査員2名とも情報交換し、今後の協力態勢を構築できた。 しかしながら、全般として現地調査が当初の計画通りに進んではおらず、この点を次年度にどれだけ挽回しうるかが、課題として残った点は否めない。また初発的段階での遅れの影響がかなり後を引いており、研究期間の延長申請も視野にれざるを得なくなってきたように思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
コロナがやや収束に向かい、また社会活動と感染対策の両立が打ち出されている新年度は、現地調査や史料閲覧の機会が増え、研究状況は一程度改善しうるものと予想している。 その中で研究代表者である石崎は、主に現地調査および史料閲覧の機会を増やし、この方面での研究の推進の基軸となり、そこで得られた知見・成果を他の研究者と共有して、研究全体の推進に努めたい。 研究分担者の本多は今年度の検討結果をもとに、江戸幕府及び岡山藩での鋳造関係史料の研究に主に従事する予定である。また今年度より新たに研究分担者に加わった戸根は、考古学的知見を活かし、坂本銭の現物の観察と他地域の遺構からの類推的検討を進める予定である。 研究協力者の関口は在京の貨幣史史料・参考文献の入手と情報提供と分析に従事し、同じく研究協力者の黒田は引き続き絵図資料のリストアップと原図の閲覧を加速させる予定である。 なお以上の成果を持ち寄った研究会を年に数回程度開催し、情報・知見の共有宵兼区間に努める。同時に年度に向けての研究の方向性について、研究者間で十分に協議していきたい。
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Causes of Carryover |
やはりコロナの感染がなかなか収束せず、現地調査や史料原本閲覧、資料収集ができなかったことが最大の原因であるように思われる。この差額については、コロナ感染症の流行が収束、あるいは感染対策と社会的活動の両立の方針が示され次第、新年度の研究出張の頻度を当初計画よりさらに増やし、研究自体の挽回を図るとともに、極力当初の予定に近い額まで執行し得るよう鋭意努力したい。 また、現地調査等の進行に伴い、追加で新たに必要となってくる機器備品や図書が出てくる可能性もあるため、その場合には、旅費の余剰分をその方面に転用し、研究自体の高度化につなげたい。 なお、コロナ感染症流行が容易に収束しない場合、もしくは社会的活動との両立が抑制された場合には、研究出張をさらに先送りし、あるいは新年度以降における機器備品や図書の購入を適切な範囲内で、前倒しあるいは増額して執行することも検討している。
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Research Products
(1 results)