2022 Fiscal Year Research-status Report
歴史GISによる京都の都市景観復原と地形の居住地選択への影響に関する研究
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20K00950
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
河角 直美 (赤石直美) 立命館大学, 文学部, 准教授 (40449525)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 環境史 / 景観復原 / 土地利用変化 / 遊興空間 / 扇状地 / 天井川 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の特色は、自然環境は常に変化するという自然科学分野、とりわけ環境考古学の成果と、多様な人文的データベースを歴史GISにて融合し、都市の景観復原を試みることである。 過去の景観に対する認識を把握するうえで、2022年度は京都の街の景観などを記述した近代の文学作品といった文字資料の収集にも着手した。それらには、鴨川の景観をはじめ、東山の景観、都市近郊農村の変容、いわゆる右京の状況などが写実的に記述されている。みな個人的な主観をともなうものであるものの、複数の内容を横断して確認することによって、過去の景観を復原するための一助となると考えた。また、各研究機関がデジタルアーカイブし公開している近世から近代にかけての京都を描いた洛中洛外図屏風や絵図資料、古地図などを検索・閲覧・収集し、文字資料の内容との照合も試みた。さらに、近代の鴨川や桂川を撮影した古写真(絵葉書)の収集もおこなうことで、文字資料との整合性について検討をくわえた。なかでも賀茂川・鴨川については、記載から解釈できる川とのかかわり方と、写真資料から読み取ることのできる河床における土砂の堆積と自然堤防帯への居住の展開といった点を分析し、納涼風景の意味の分析にも取り組んだ。こうした主観的ともいえる史資料を交えることで、とりわけ鴨川の自然環境と河川と人々とのかかわりかたの来歴や、平安京右京に相当する地域における土地利用の変化の解明を2022年度は重視した。 以上の結果を受け、次年度はリスクの回避と理解できる事象の一方で、遊興空間成立の意味などを問うことで、度々被災しつつも1200年の間都市として維持された背景について議論を展開したい。こうしたGIS上での資料の集積により、歴史地理学における既存の研究手法にとどまらない、新たな視角を提示したい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
この間の新型コロナウイルス感染症の流行の影響により、現地調査や聞き取り調査を想定通り進めることができなかったものの、書き残された近代における京都の景観に関するエッセイや書き物を収集することにより、人々の考えや意識といった主観的な内容を補ってきた。こうした資料は聞き取り調査では知ることのできない内容を含むものであり、地図類や古写真なども踏まえることで、より過去の実態を把握できるものと察している。 また、各研究機関による近世期の古典籍や絵図類のデジタル化とその公開が進んでいることもあり、それらの閲覧による情報収集をめざした。その結果、河川環境を知るうえで重要な理解を得られる資料も発掘された。それら描画内容や文字資料については、GISデータベース化されている旧版地形図や近代期の『京都市都市計画基本図』などを活用して景観を復原し可視化することをこころみている。 コロナ禍の影響から人手を確保できずに生じた作業の遅延はもとより、またその他の予期せぬ状況が起こった場合には、京都市の中心部全域を対象とするのではなく、鴨川の周辺を中心とした京都市の北中部に関しての地形環境の変遷と居住地との関係を明らかにした成果を提示する。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度は、これまで定量的なデータの分析に用いられてきたGIS上に情報を集積し、分析をおこなう。とくにGISのエディタ機能で、位置情報を有する絵図や古地図などの歴史資料、古写真、人々の記憶などの定性的な情報を描画し、GISデータベースを構築していく。 また、先行研究では遺跡の埋没深度をもとにして、8~10世紀、11~14世紀、15世紀、16~20世紀前半、そして20世紀後半以降の各時代の平安京域を中心とする地形環境の復原が試みられている。この成果に依拠しつつ、とりわけ鴨川周辺における地形変化の詳細な地形環境復原について記載を試みる。 人間活動の動向と自然環境の変化を総合的に分析することで、度々被災しつつも1200年の間都市として維持された背景について、地形環境の変化に対応した土地利用の有無を示す。さらに、洪水のリスクが膨らみつつあるなかでも、形成された地形条件を最大限に利用することで、遊興的な部分での生活の質を満たしていった可能性について検討したい。 日本の平野の成り立ちと災害リスクを考えると、過去の自然環境とその変化を知ることは、地域住民の防災の意識を高めるためにも重要であるが、その一方で、扇状地という地形にいつの間にか依存しながら、河川に親しみ身近な自然と付き合ってきた過去の人々の心の持ち方に、近現代では失われた自然とのかかわり方を見出すことを目指す。もちろん、水辺は、その地盤的な問題から被差別の問題を含む可能性は否めないことから、その点も十分に考慮したい。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症の流行を受け、アルバイトの雇用をはじめ、現地調査や聞き取り調査など、人と接する調査について、計画通りに進めることができなかったことから、次年度使用額が生じてしまった。また、学会への参加についてもオンラインで参加が可能となったことが、次年度への使用額が増えた理由である。 2023年度では、多くの学会が通常の形式での開催を予定しており、旅費での執行が進むと考えられる。さらに、大学においても、コロナ禍以前の状況に戻りつつあることから、多くの学生が対面で大学に通学するようになっており、作業の依頼などを順次行ってゆく。 また、研究計画時には予定していなかった、古写真や文書資料の収集にも充当する予定である。
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Research Products
(1 results)