2022 Fiscal Year Research-status Report
近代日本におけるアイヌ民族の〈社会への参画〉の歴史に関する基礎的研究
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20K00952
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Research Institution | Hokkaido Museum |
Principal Investigator |
小川 正人 北海道博物館, 研究部, アイヌ民族文化研究センター長 (10761629)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 近代アイヌ史 / 近代アイヌ教育史 / 先住民族の近代史 / 植民地教育史 / 北海道史 |
Outline of Annual Research Achievements |
1 本研究課題は、近代において極端な少数者となる位置に置かれたアイヌ民族が、教育の充実、社会資本の整備、様々な職業への従事等のかたちで社会への参画を目指した歴史に着目し、その実相の解明を通した近代アイヌ史像の構築を目指すものである。具体的な研究計画として、4年間の研究期間を設定し、先ず基礎的事実となり得る個々の地域や人物の事例を把握する調査に重点を置き、その上でこれらの成果の集積を図る進め方とし、その際道内博物館学芸員等の協力を得て検討を深める方法を立てた。 2 1、2年目に当たる2020、21年度は、新型感染症の拡大という状況を踏まえ、「個別事例の調査」について海外及び遠隔地の調査を抑制して札幌近郊を中心とした調査に切り替える一方で、対面及びインターネットによる協力者との協議を個別に重ねつつ、「成果の集積」について研究会の開催等を進める方策を採った。経費配分についても、旅費が抑制される分を資料調査データの集積や研究会・共同討議に振り向けるようにした。 3 2022年度は、「事例事例調査」を進めつつ「成果の集積」の比重を高める年度に当たる。同年度も海外調査は困難であったことから、個別事例調査は札幌市及び近郊の他は釧路市・釧路町、幕別町・帯広市、平取町、長万部町、積丹町で進めつつ、成果の集積について、英国聖公会によるアイヌ教育に関する研究会(4月、白老町)、近現代アイヌ史研究の方法論に関する研究会(5月、北海道博物館)等を実施した。経費については、旅費等のほか、現地調査成果を蓄積し研究会を会場参加とオンライン参加のハイブリッドで実施するためのノートパソコンの調達等に配分した。 4 研究成果のとりまとめ・対外発信についても、上記の研究会のほか、平取町立二風谷アイヌ文化博物館特別展への協力、『アイヌ文化史事典』の近現代項目執筆等、これまで以上に多くの成果を得ることができている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
・「5 研究実績の概要」にも記載のとおり、今年度も新型感染症の拡大のため当初の研究計画の変更を余儀なくされたものの、道内の調査を充実させるとともにオンラインを併用した研究会の開催等を実施することで、本研究課題が目指した「個別事例の調査」と「その集積を通した歴史像の捉え直しに向けた検討」のそれぞれについて進めることができている。 ・2022年度について見れば、4月、5月に研究会を開催、特に5月開催した研究会は、リチャード・シドル著『アイヌ通史―「蝦夷」から先住民族へ』(岩波書店、2021年)に即して、会場(北海道博物館)参加、オンライン参加を併用し、同著の翻訳者であるマーク・ウンチェスター氏のほか、アイヌ史をはじめいわゆる沖縄史、台湾史など多様な分野の研究者等20名以上の参画を得て、近現代アイヌ史の方法論を議論する機会となった。研究代表者による発表等においても、『北海道現代史 資料編』(北海道、2022年)や『アイヌ文化史事典』におけるアイヌ史関連記述や、平取町立二風谷アイヌ文化博物館特別展「北海道における近代の学校とアイヌ民族 ―沙流川流域を中心に―」への協力等の、前年度までよりも多くの成果を得ることができている。 ・また、最終年度に当たる2023年度に向けても、同年度中に教育史学会大会シンポジウム(2023年9月予定)においてアイヌ教育史研究のあり方を問い直す報告を計画することができる等、本研究課題のとりまとめと、これを踏まえた新たな課題の設定に繋げる取り組みを進めている。
以上のことから、本研究課題に関する2022年度までの進捗状況について「(2) おおむね順調に進展している」と判断している。
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Strategy for Future Research Activity |
・今年度(2023年度)は本研究課題の最終年度に当たるので、個別事例に関する調査について補遺を進めつつ、全体としては成果のとりまとめ・発表に重点を置き、あわせて今後の課題設定と方法の模索に取り組む。 ・個別事例調査では北海道内で調査課題を遺している登別市(地域の学校設置のほか共同牧場開設などの活動を追跡する等等のほか、昨年度まであまり調査できなかった道外について、仙台市、東京都、大阪市等での調査を行う。 ・個別事例研究の集約と成果のとりまとめ・発表では、教育史学会大会(9月)においてアイヌ教育史研究のアイヌ史像描出に対する有効性の検討を主題に据えたシンポジウムを設け、近世史から現代史までのアイヌ史研究のほか他の諸分野の研究者を指定討論者に招いた議論を行う。また自ら学校を設けたり行政書士をつとめた経歴を有する山辺安之助や江賀寅三を主題に据えた研究報告の機会を設ける等、成果の発表とアイヌ史研究の課題と方法に関する共同討議を進める。 ・これらの成果のとりまとめ・発表と研究討議に当たっては、次なる研究課題の設定と方法の検討を意識しておきたい。現時点でのおおよその見通しとしては、近現代アイヌ史については 1)依然として基礎的史実の解明や、そのための資料群の調査に多くの未着手・未検討の余地が多く遺されていること 2)一方で、アイヌ史はもとより、先住民族と移住者とで構成される近現代北海道史について、学校教育等への成果の活用、とりわけヘイトスピーチ等の社会的少数者に対する偏見を伴う言説を実証的に打破し得る実践的な成果が現実的課題とされているとを感じる。すなわちアイヌ史においては「基礎的研究の蓄積」と「実践的な場に向けた歴史像の提示」の双方が喫緊の課題となっているのであって、両者を並行・往還させるかたちで進める研究課題の設定と、それを担い得る研究組織(チーム)の構築を構想していきたい。
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Causes of Carryover |
2022年度前半までは新型感染症拡大防止への配慮から、引き続き道外への調査を抑制したことにより、当初計画に比べ旅費の支出が減額されています。もとより、その中での研究の充実を図るため、オンラインによる研究打合せ、研究会の開催や、資料調査データの蓄積等につとめ、そのための物品費に当初計画以上の経費を充当いたしましたが、最終的に、旅費の減額ぶんがその他の経費の積み増しぶんをやや上回ったことにより、次年度使用額が生じたものです。 これについては、2023年度における道外調査の実施や、これまでの調査データの集約・とりまとめに向けた経費に充てる計画を立てており、最終的には当初計画額の予算執行の上で所期の成果を達成できるものと見込んでおります。
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Research Products
(5 results)