2021 Fiscal Year Research-status Report
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20K00967
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Research Institution | Bukkyo University |
Principal Investigator |
麓 慎一 佛教大学, 歴史学部, 教授 (30261259)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 海洋秩序 / 領土 / ロシア / ラッコ / オットセイ / アラスカ / ロッペン島 / アイヌ |
Outline of Annual Research Achievements |
帝政ロシアが露領アメリカ(アラスカ)をアメリカに売却したことによって惹起された環太平洋秩序の崩壊と再編が日本にどのような影響を与えたのかを解明することが研究目的である。2021年度は海洋秩序の崩壊と国民国家の関係について、樺太・千島交換条約後に日本人となった千島列島のアイヌを素材に検討した。千島列島は、明治8(1875)年5月の樺太・千島交換条約の締結によって日本の領土になり、国境が画定された。しかし、千島列島のアイヌはシュムシュ島とカムチャツカ半島を自由に往来しており、国境の実態はなかった。彼らは、明治17(1884)年7月、シュムシュ島からシコタン島に移住させられ、それにより国境は実質的なものになった。この背景には海洋秩序の崩壊と再編における海獣猟業者(アメリカ人・イギリス人)の千島列島近海への進出があった。 このシコタン島に移住させられたアイヌの日本人化が明治30(1897)年初頭に企図される。この日本人化とはロシア正教を信奉する彼らを仏教に改宗し、それとともに生活様式を日本人と同様にすることである。このアイヌの日本人化を推進したのは、千島列島の開発のために明治26(1893)年に報效義会という組織を立ち上げた郡司成忠である。彼は東本願寺の僧侶の奥村円心をシコタン島に派遣して、アイヌをロシア正教から仏教に改宗しようとした。そして、この奥村円心はアイヌの改宗に寄与するとして東京と京都に二人のアイヌを連れていった。いわゆる「文明ノ世態」の視察である。しかし、これは成功しなった。すなわち海洋秩序の崩壊と再編の過程において問題になった千島列島のアイヌの日本人化は日本にとって極めて困難な課題だったことを明らかにできた。この点が本年の研究実績の中で最も意義がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究はおおむね順調に進んでいる。水産伝習所関係の資料群の目録を複写し、その概要を把握できた。また、函館や小樽の明治末から大正初期にかけての新聞資料を入手して目録を作成している。現在、作業中であるがとりわけ「函館毎日新聞」などが本研究にとって重要であることが確認できた。さらに海洋秩序の再編と開港地の関係について門司・長崎・舞鶴・稚内・小樽・函館を事例として雑誌『港湾』の分析を進めた。ここではウラジオストックの「自由港」制度・「商港」制度の重要性を認識することができた。これに加えて朝鮮北部の港湾都市についても多くの知見を得ることができた。 清国・韓国・ロシアの開港都市の状況を解明するために『領事報告集成』・『通商公報』を分析した。とりわけバンクーバー領事館やウラジオストック貿易事務官の資料群が本研究に有益であることが分かったが十分に分析できていない。 海洋秩序の再編によって開港地の商況がどのように変化したのかを『本邦商業会議所資料』に所収されている『長崎商業会議所報告』などから分析した。長崎は海洋秩序の再編において重要な都市であるが『長崎商業会議書報告』に多くの欠本部分があり、当初、予想した成果は上げられなかった。この点は『鎮西日報』など長崎の新聞資料で補足作業を明治21(1888)年までは進めることができた。なによりウラジオストックの自由港制度の廃止と日韓併合後の釜山の形成が海洋秩序の変容にどのように影響されたのかを解明する糸口を得た。以上の点を中心に研究を継続し海洋秩序の変容ならびに再編と日本、とりわけ開港地に与えた影響を明らかにしつつある。直近では『露領浦塩斯徳 北朝鮮 南北満洲 実業視察報告書』(大正2年)を上記の視点から考察することで、海洋秩序の崩壊と再編が領土の変更(朝鮮の植民地化)と密接に連関していることを明らかにできる、と見通している。
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Strategy for Future Research Activity |
「今後の研究の推進方針」は以下の四点である。第一は北洋漁業の展開にあって、日韓併合後に朝鮮人がそれに参画した問題をさらに解明する。この点は『領事報告集成』や『通商公報』のウラジオストック関係記事を収集して分析する。第二は、海洋秩序の崩壊と再編が樺太・千島列島・竹島(現在のウルルン島)・琉球・小笠原などにどのような影響を与えたのかを考察する。特にこれまで研究してきた樺太・千島列島の北方地域だけけなく、小笠原諸島・竹島・琉球に焦点をあてる。これら研究についてはそれぞれ研究蓄積があるが、それらを関連付けて考察する視点が欠けている。しかし、それらは多くの場合、海洋秩序の崩壊と再編のなかで、相互に関係しながら進展していた。そして、それが国境の画定にどのような影響を与えたのか、という点を考察する。第三は、海洋秩序の再編によって開港地の商況がどのように変化したのかを商業会議所資料に所収されている『長崎商業会議所報告』などからさらに分析する。その素材として北海道の「昆布会社」と「昆布生産人聯合組合」の設立(広業商会の衰退)を取りあげる。これはロシア産昆布との競合および日本における「下等昆布」の生産の問題が関係している。さらに中国商人のロシア産昆布の買い付けとドイツ船の利用(長崎)などにより海洋秩序の変容(ロシアによる沿海州の獲得)が昆布市場にどのような影響を与えたのかを詳細に考察する。これまで明治20年初頭までは分析しているが、その分析をさらに明治後期から大正期に拡大する。第四は、海洋秩序の崩壊と再編の過程において地域社会がどのような影響を受けたのかを考察する。この地域社会についてはこれまで日本国内を想定していたが、日韓併合後の朝鮮半島についても分析を拡大する。朝鮮半島の諸都市の商工会議所関係の史料群を分析してこの問題にアプローチする。 以上の四点を中心に研究を推進する。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は二点ある。第一は海外での調査が出来なかったことである。第二は国内の調査が予定の三分の一程度しかできなかったことである。第一については業者を介してマイクロフイルムの購入を検討したが、イギリスにおいてもアメリカ合衆国においてもデユープサービスを一時、停止しており発注できなかった。そこで、2021年度は研究課題のなかで日本に所蔵されている資料群の調査を中心に研究を推進した。具体的には全国商業会議所の購入により、海洋秩序の変容と再編が日本の地域社会にどのような影響を与えたのかを解明した。すでに北海道など北方地域の商工会議所関係資料については閲覧し、分析した。2022年度はこれを全国(関東・中部・近畿・中国・四国・九州・沖縄)に拡大する。また、国立国会図書館で作業をしてきた水産関係の雑誌の目録複写についても継続し、全ての目録を入手し不足分については水産庁水産研究所や北海道大学図書館などで補充する。この複写作業費に2022年度使用分を充当する。イギリス外交文書のFO46なども複写ないしは電子データで入手する。これにも2022年度の経費を充当する。
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Research Products
(3 results)