2021 Fiscal Year Research-status Report
実証的地名研究と地名の歴史資料化―カリヤドとは何か―
Project/Area Number |
20K00974
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Research Institution | National Institutes for the Humanities |
Principal Investigator |
青山 宏夫 大学共同利用機関法人 人間文化研究機構本部, 大学共同利用機関等の部局等, 理事 (00167222)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 地名 / 道 / 川 / 中世 / 歴史地理学 / 日本 |
Outline of Annual Research Achievements |
文献調査とオンライン等による情報収集を中心に実施した。とくに地名辞典に掲載された小字一覧を網羅的に調査した。具体的には、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、山梨県の7都県について、『角川日本地名大辞典』に掲載の小字一覧から関係地名を抽出した。対象とした総頁数は377頁であり、掲載小字数は概算で約34万件にのぼる。 その結果、漢字表記では「仮宿」「狩宿」「借宿」「苅宿」と様々であるが、「カリヤド」と読む地名を栃木県・神奈川県で各4箇所、群馬県・埼玉県・千葉県で各2箇所、東京都・山梨県で各1箇所の、合計16箇所を抽出することができた。限られた文献調査とはいえ、7都県にわたる広域において約34万件の地名を検討することから得られた結果は、一定の信頼性を有するものと評価できる。 これら16箇所のうち、千葉県市原市新堀字苅宿は今回の作業で初めて検出されたものである。そこは北流する養老川が西に流れを変える蛇行の頂点付近の右岸に位置し、中世には称名寺領とも目される新堀郷であった。また、対岸は蛇行する養老川の滑走斜面を介して下総台地の一画をなす袖ヶ浦台地に接する。 この蛇行の頂点右岸に接するように大多喜街道が南北走し、これを北上して途中で滑らかに分岐する小道をさらに北上すると、上総府中の所在地と推定される市原市能満に至る。一方、蛇行の頂点から養老川を渡って南西方向に行くと、地元で鎌倉街道と呼称される古道に滑らかに接続する。この伝鎌倉街道は、途中で「鎌倉街道」の小字やその名を刻む道標を通過してさらに西に延び小櫃川河口付近に至るが、その先には東京湾対岸の六浦湊や金沢さらに鎌倉を視野に入れることができる。 以上から、市原市新堀字苅宿付近は、鎌倉から上総府中に至る中世の幹線道路の養老川渡河点であった可能性が高い。カリヤド地名が中世の幹線道路の渡河点に位置していることを示す好事例である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
新型コロナウイルス感染症の感染拡大を防止する観点から、出張を伴わない文献調査やオンライン等による情報収集、およびそれらの検証等を中心に進めた。とくに、小字の文献調査によって新資料を発見することができるなど、現地調査では得られない成果を上げることができた。また、現地調査は最小限に控えていたが、当該新資料の関係する現地(市原市)が比較的近距離にあったことから、現地調査を実施することもできた。
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Strategy for Future Research Activity |
新型コロナウイルス感染症の感染状況が今後も予断を許さないことを考慮して、今年度に引き続き、文献調査とオンライン等での情報収集を中心に進める。とくに、地名辞典等の小字一覧の網羅的な調査は有意義であることから、今後、東北地方および北陸、関東の一部について実施して東日本の調査を完了させるとともに、比較検討するために西日本の一部についても調査を進める計画である。あわせて、地形図、空中写真、各種文献・史資料等、オンラインで利用可能なものを積極的に活用して、「カリヤド」という地名の立地条件の検討を進める。また、現地調査についても、新型コロナウイルス感染症の感染状況に注意を払いつつ可能な限り実施する。
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