2021 Fiscal Year Research-status Report
琉球士のライフコースの解明を主題とした琉球家譜の研究
Project/Area Number |
20K00977
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
武井 基晃 筑波大学, 人文社会系, 准教授 (00566359)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 琉球 / 家譜 / ライフコース / 比較家族史 / 東アジアの儒教社会 / 姓の創設 / 家系の継承 / 女性 |
Outline of Annual Research Achievements |
近世琉球社会の家族制度について個々人の履歴と照合しながら明らかにするという本研究課題の成果を得て、東アジア社会の家族研究との議論を深め、研究成果を公開することができました。 1.学術発表:近世琉球における家譜制度の成立期に当たる家譜の管理部署の設置(1689年)と法律の制定(1730年)の前後の時期を対象とし、新しい姓の創設・家系の継承・ライフコース(琉球士の移籍や途絶えた士の家の継承とその際における姻戚の関わり、功績のある民間人や王府に献金した女性の一族の士身分への取り立て)ついて、琉球の家譜(系図)資料に記録された個々人の履歴にもとづき分析しました。その成果、特に近世琉球社会における姓・家系のあり方や女性の役割について、「琉球王府の家譜制度と儒教―新たな姓・家系の成立の仕組みを中心に」と題し比較家族史学会の春季大会で開催されたシンポジウム「東アジアはどこまで「儒教社会」か?―チャイナパワーとアジア家族」(2021年6月19日(土)~20日(日)、オンライン開催)に昨年に引き続き登壇し、東アジアの比較家族研究および儒教研究の文脈での論考を発表しました。 2.成果公開:第43回南島文化市民講座「葬墓制からみる近世琉球社会―祖先と子孫の対話―」(南島文化研究所。2021年11月13日(土)オンライン開催)にて「近世の系譜と今日の位牌」について講演し、後日報告集にも寄稿しました。また、沖縄県の石垣島在住の調査対象者から提供を受けた、琉球時代における家譜(八重山系家譜)『林松姓系図家譜』について分析(1771年の八重山地震・大津波時の当該家族の人的被害と養子による家の継承、代々の男児の命名の規則、誤記と思われる箇所の検討と修正)した成果をオンライン(つくばリポジトリ)で公開しました( http://hdl.handle.net/2241/0002003169 )。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
新型コロナ禍のため現地調査(フィールドワーク、図書館・博物館でのライブラリーワーク)は当初の計画通りには進められませんでした。しかしながら、上記「研究実績の概要」の通り1.学術発表および2.成果公開に関しては計画以上に進めることができています。これを当初の研究計画と照らし合わせますと、次の通りです。 1.本研究が掲げる「琉球士のライフコースの解明」に関して比較家族史学会の研究大会にて初年度と本年度の2年連続でシンポジウム報告の機会を得られ、儒教的家族制度という共通課題について、日本史だけでなく東アジア各国の比較家族研究を進める国内外の多くの研究者と議論を重ねることができました( http://jscfh.org/2021/05/16/%e7%ac%ac68%e5%9b%9e%e3%80%80%e6%98%a5%e5%ad%a3%e7%a0%94%e7%a9%b6%e5%a4%a7%e4%bc%9a%e3%81%ae%e3%81%94%e6%a1%88%e5%86%85/ )。これにより「包括的な琉球士のライフコース研究は課題のままなので、それを進めるとともに、日本の家族史の研究へとの接続を目指す必要」とする交付申請書にかかげた目標について、初年度につづき十分に深めることができました。 2.一般向けの公開講座にて研究成果を公開しました。また当初計画の範疇外だった八重山系家譜の分析についても資料を得て分析した成果の電子公開に至りました。交付申請書に記したように得られた成果を「史料が有する生活社会内での文脈に着目してその価値・役割を解明し」、かつ「子孫をはじめ調査対象者に積極的に還元し対話的共有を目指すとともに、現代の当事者によるチェックを受ける機会」について十分に進めることができています。 以上の点について、当初の予定を越えて成果を得て、以降の年度につなげることができています。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の主題である琉球士のライフコースの解明について、比較家族史学会の大会シンポジウムに2年続けて登壇し、琉球王国の家族制度研究の専門家として報告できたことによって学術発表に関しては十分に進めることができました。このシンポジウムの成果は東アジアの儒教思想と社会を主題とした学術論文集として刊行される企画も進んでいます。引き続き、東アジアの家族研究について研究者と議論しながら研究成果を公開し、家族制度の比較史的議論を発展させられるものと考えています。 新型コロナ禍の影響のうち、学術発表の場はオンライン化によっておおむね解決されたものの、現地調査(フィールドワーク・ライブラリーワーク)が課題のままですが、沖縄県内の博物館での資料調査は状況を見ながら実施を考えています。また、すでに進めてきている琉球家譜(系図)資料・書籍の購入に加えて、琉球士の人生・職歴にかかる近世史料(たとえば琉球から江戸への使節団(江戸上り)の記録・名簿)の購入と分析に向け、先行研究の検討など準備を進めています。これらの資料と照合することによって、交付申請書に記したとおり「外交の現場に関わった個人の履歴を重ね合わせることで誰が、何をしたのか、またその履歴が外交上どの段階に関わるものだったのかを明らかに」することができると考えます。
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Causes of Carryover |
新型コロナの影響が続いたことにより、現地調査は控え、学会発表もオンライン化が進んだため、旅費等が執行できませんでした。 ただし、次年度はともに実施を予定しております
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Research Products
(6 results)
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[Book] 社会と儀礼2021
Author(s)
関沢 まゆみ
Total Pages
224
Publisher
朝倉書店
ISBN
978-4-254-53584-6
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[Book] 行事と祭礼2021
Author(s)
新谷 尚紀
Total Pages
240
Publisher
朝倉書店
ISBN
978-4-254-53583-9