2021 Fiscal Year Research-status Report
異端のデモクラシー―初期アメリカ合衆国における人民主権論のポピュリズム的展開―
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20K01032
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
小原 豊志 東北大学, 国際文化研究科, 教授 (10243619)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ポピュリズム / 人民主権論 / アメリカ民主主義 / ドアの反乱 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、アメリカ民主政が発展・確立する18世紀末から19世紀前半期に頻発した「反乱」を、民衆が独自に構築した人民主権論にもとづくポピュリズム運動ととらえ、その論理と運動の全体像を描き出すことにより、ポピュリズムが合衆国政治文化の基礎形成期に果たした役割を明らかにするものである。その際、本研究では民衆独自の人民主権論とその発現としてのポピュリズム運動(「反乱」)を「異端のデモクラシー」と名付け、そこに内在する革新性と反動性の関連を明らかにしつつ、初期のポピュリズムがアメリカ民主政の展開に与えた影響を解明する。 以上の構想のもと、研究二年目にあたる2021年度は、1840年代前半のロードアイランド州で発生した「ドアの反乱」の鎮圧後に、その首謀者として訴追された人物(トマス・ウィルソン・ドア)の裁判を検討した。 この裁判において州検察当局はドアを州に対する反逆者として断罪したのに対し、ドアはみずから率いた反政府活動を人民主権論にもとづく人民の正当かつ当然の行為と主張して無罪を主張した。すなわち、この裁判は「反乱」をめぐって支配者の人民主権論と民衆の人民主権論とが対峙した場であったのであり、その帰趨はアメリカ民主政が依って立つべき人民主権論の内実を定めることになったのである。 以上の研究から明らかになったのは、人民主権の本質を人民による統治機構の自由な改変権としたドアに対し、州司法当局は法の手続き論を展開してドアの議論を一蹴したことである。この裁判の結果、ドアは合衆国史上初めて州に対する反逆罪を適用され、終身刑に処されたのであった。 以上から、建国後半世紀を経過した合衆国においては、人民の革命権を認める独立宣言型の人民主権論は後景に退き、法の手続きを重視する合衆国憲法型の人民主権論が優位になっていたことが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2020年春に発生したコロナ禍が依然として収束していないため、当初予定していた国内外の資料調査が実施できなかったため。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も国内外の資料調査には大きな制約が課されると予想されることから、研究の基礎資料に関しては既に収集した資料を最大限に活用するとともに、オンライン上で公開されている電子化資料の収集とその再検討を積極的に行うことにより、計画の遅延を取り戻す予定である。
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Causes of Carryover |
コロナ禍が未収束のため、当初予定していた国内外における資料調査や研究発表ができなかったため。今後はコロナの感染状況を慎重に見極めつつ、可能な資料調査を行う。
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Research Products
(1 results)