2022 Fiscal Year Research-status Report
異端のデモクラシー―初期アメリカ合衆国における人民主権論のポピュリズム的展開―
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20K01032
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
小原 豊志 東北大学, 国際文化研究科, 教授 (10243619)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | ポピュリズム / 人民主権論 / アメリカ民主主義 / ドアの反乱 / ルーサー対ボーデン裁判 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、アメリカ民主政が発展・確立する18世紀末から19世紀前半期に頻発した「反乱」を、民衆が独自に構築した人民主権論にもとづくポピュリズム運動ととらえ、その論理と運動の全体像を描き出すことにより、ポピュリズムが合衆国政治文化の基礎形成期に果たした役割を明らかにするものである。その際、本研究では民衆独自の人民主権論とその発現としてのポピュリズム運動(「反乱」)を「異端のデモクラシー」と名付け、そこに内在する革新性と反動性の関連を明らかにしつつ、初期のポピュリズムがアメリカ民主政の展開に与えた影響を解明する。 以上の構想のもと、研究三年目にあたる2022年度は、1840年代前半のロードアイランド州で発生した「ドアの反乱」に対する連邦司法の対応を検討した。2021年度に検討したように、ロードアイランド州司法当局はこの「反乱」の首謀者としてトマス・W・ドアを反逆罪のかどで終身刑に処したのであったが、これを不服とするドアは合衆国最高裁判所に自らの人民主権論の正統性を問う訴訟(「ルーサー対ボーデン裁判」)を提起したのであった。 この裁判においてドアは合衆国憲法の「共和政保障条項」を根拠に自らの行為の正統性を主張した。すなわち、この裁判は共和政という政治体制が人民主権といかなる関係にあるかを合衆国司法に問うものであったのである。はたして判決はこの問題に対する判断を回避し、ドアの人民主権論の当否にも言及しなかった。このような合衆国司法の態度からうかがえるのは、人民主権の本質を憲法の自由な制定(修正)権とするドアの人民主権論はいよいよ「異端」とみなされるようになっていたということである。 以上から、建国後半世紀を経過した合衆国においては、人民による直接的な統治体制の改変を是とする独立宣言型の人民主権論は後景に退いていたことが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2022年度はコロナ禍が落ち着き、国内出張が容易になったことにより、研究の進捗状況が改善されたため。また、インターネットで公開される各種の電子化資料も入手しやすくなったため。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題はコロナ禍による影響のため、研究期間を一年間延長することになった。この延長期間においては引き続き史資料の収集とその再検討を進めるとともに、上記の「ドアの反乱」を中心にしつつ、これに前後して発生した種々の「反乱」をも視野に入れ、アンテベラム期の人民主権論とポピュリズムとの関係を総括する予定である。
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Causes of Carryover |
コロナ禍のため、国内外における資料収集作業を実施できなかったことから次年度使用額が発生した。 本使用額については、国内外の状況を慎重に見極めつつ、可能な場合は資料収集のための費用に充てる。それが困難である場合には各種の電子資料の購入費に充てる。さらには、本研究課題の総括にあたって必要な備品費や消耗品費に充当する。
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Research Products
(1 results)