2023 Fiscal Year Annual Research Report
異端のデモクラシー―初期アメリカ合衆国における人民主権論のポピュリズム的展開―
Project/Area Number |
20K01032
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
小原 豊志 東北大学, 国際文化研究科, 教授 (10243619)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | ポピュリズム / 人民主権論 / アメリカ民主主義 / ドアの反乱 / ネィティビズム |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、アメリカ民主政が発展・確立する18世紀末から19世紀前半期にかけて頻発した「反乱」を、民衆が独自に構築した人民主権論にもとづくポピュリズム運動ととらえ、その論理と運動の全体像を描き出すことにより、ポピュリズムが合衆国政治文化の基礎形成期に果たした役割を明らかにするものである。その際、本研究では民衆独自の人民主権論とその発現としてのポピュリズム運動(「反乱」)を「異端のデモクラシー」と名付け、そこに内在する革新性と反動性の関連を明らかにしつつ、初期のポピュリズムがアメリカ民主政の展開に与えた影響を解明する。 研究最終年度にあたる2023年度は、ひとつに1840年代初頭のロードアイランド州で発生した「ドアの反乱」の鎮圧後に行われたある冤罪裁判に焦点をあて、反乱によって醸成されたネィティビズム(反アイルランド系感情)がこの裁判の行方に大きな影響を与えていたことを解明した。 いまひとつには本研究課題の総括として、上記の「ドアの反乱」を南北戦争以前期のポピュリズム運動史のなかに位置づけ、この反乱の鎮圧をもって独立宣言に由来する急進的人民主権論が最終的に異端化されたことを明らかにした。しかし、その人民主権論は1840年代末になると住民主権論という奴隷制拡大の論理に転用されていった事実を明らかにすることができた。 本研究期間全体を通じて、初期アメリカ合衆国におけるポピュリズム運動は人民による直接的な統治体制の改変を是とする独立宣言型の人民主権論に基礎を置いていたものの、19世紀中葉にさしかかる頃には秩序の安定を名目に人民による政府改廃行為の抑制を図る支配者側の人民主権論が優勢となり、独立宣言型の人民主権論が異端化されていったことを明らかにすることができた。
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