2021 Fiscal Year Research-status Report
The Moneyers in long-eleventh century England and their places in Europe
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20K01041
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
鶴島 博和 熊本大学, 大学院教育学研究科, 名誉教授 (20188642)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 銭貨製造人 / 11世紀 / イングランド / 『ドゥームデイ・ブック』 / 個別発見貨 / 通貨システム / 中世ヨーロッパ経済 / ジェントリ |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度も、新型コロナウィルスの影響で、イギリスでの資料調査や文献検索を行うことができず、研究活動は国内での文献渉猟と読解およびデータベース作成とその解析に終始せざるを得なかった。そのなかで、次の二点の研究実績をあげた。 (1)春田直紀・新井由紀夫・David Roffe編『歴史的世界へのアプローチ』(刀水書房、2021年12月28日)のⅠ部「権威と権力」、Ⅱ部「社会とアソシエーション」、Ⅲ部「交通と貨幣」、第Ⅳ部「記憶と史料」の四つの柱に集約された、邦文14編、欧文9編の論文を読み解き、鶴島のこれまでの研究を踏まえて、「史料、言葉、そして「歴史的景観」」(pp. 431-463)という解題を作成した。現在の科研研究課題は、第Ⅲ部「交通と貨幣」と直接関わるが、それだけにとどまらず、時間と空間でのより大きなヨーロッパにおける構造に位置づけることができた。 (2)(1)の研究は、現在執筆中の拙著『イングランドの形成とジェントリー長い11世紀の環海峡世界ー』(岩波書店、近刊)の章別編成に対応していて、本科研によって第三部の貨幣と銀貨製造人=ジェントリという社会階層の部分の研究が進んだ。本書は現時点で脱稿が完了している。 (3)(1)の著作の編者の一人であるDavid Roffe博士の「Domesday Text Project」において、その分担としてイングランド南部のケント州に関わるDomesday Bookのデジタル編集を進めた。現在、Roffeが研究を牽引しているDomesday Bookは、1086年のイングランド全土の調査の報告書で、世界的にみても稀有な膨大なデータを含む史料である。編集を進める中でJ.Piercy, The Moneyers of England 973-1086と比較検証しながら長い11世紀の銀貨製造人のプロソポグラフィ研究を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前述した解題、「史料、言葉、そして「歴史的景観」」(pp. 431-463)を公開し、これまでの40年間の研究を総括できたこと。拙著『イングランドの形成とジェントリー長い11世紀の環海峡世界ー』(岩波書店、近刊)を脱稿できたことは、節目となる研究成果と言ってい良いであろう。 また、当初の目的であるDomesday Bookに記録された膨大な量の地域ジェントリ(セイン)のデータベースを作り、長い11世紀(c. 960-1135)の証書、書簡、令状、告知文書、遺言書、歴史書、年代記、聖人伝、個別発見貨などの史料と比較検証することで、銀貨製造人の家族、人的関係、社会的関係など作り上げる作業が、牛歩の歩みではあるが、進みつつある。その成果は拙著でも公開している。従って、研究成果の状況をみる限りでは、おおむね順調と判断しても問題はないと思われる。 しかし、その一方で、新型コロナ蔓延やウクライナ情勢の影響で、海外渡航が難しくなり、リーズ国際中世学会での報告延期といったような事態が発生して、欧米在住の公的あるいは私的な共同研究者と、現地での相対しての議論や情報交換や研究立ち上げを行えないことは、新しい史料の発掘や発見という側面からは、必ずしも順調とは言えない。海外での研究は、これから解禁されて、進むであろうことを期待している。その一環として今年度のリーズ国際中世学会を手始めに海外での研究活動を再開する予定である。 最後に、研究成果そのものではないが、鶴島が退職した名誉教授という資格で科研研究を行う上で、大学内での研究施設の利用という面で小さな問題が発生している。これに関しては改善の努力が必要であろう。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)拙著『イングランドの形成とジェントリー長い11世紀の環海峡世界ー』(岩波書店、近刊)を出版する。現在の状況では2022年度中の出版が可能である。 (2)Domesday Bookに記録された膨大な量の地域ジェントリ(セイン)のデータベース構築の作業を継続する。とくに、長い11世紀(c. 960-1135)の史料との比較検討をすすめる。 (3)David Roffe博士の「Domesday Text Project」の分担分であるケント州のDomesday Bookのデジタル編集を進める。 (4)2022年7月1日より19日までイギリスに出張して以下の研究活動を行う。 1)7月4日から7日まで、リーズ国際中世学会で論文報告を行う。2)(1)の著作も含めて、旧著『バイユーの綴織を読む』(山川出版、2015年)と拙論の論文集(英語の分)や2016年度から19年度までの科研Aの報告書等の英語版の出版のための話し合いを、David Roffe、ケンブリッジ大学のRory Naismith, ケンブリッジ大学フィッツ・ウィリアム博物館貨幣メダル部門責任者Adrian Popescuと行う。3)(3)の研究を推進するためにDavid Roffe博士との研究打ち合わせをする、 (5)「中世ブリテンにおける魚眼的グローバル・ヒストリー論」『世界歴史9ヨーロッパと西アジアの変容』(岩波書店、2022年)を刊行する。この論文は、Hirokazu Tsurushima, 'The Global History of medieval Britain', Rory Naismith et al. eds. The New Cambridge History of Britain (CUP)の掲載予定の論文のダイジェスト版で、鶴島の次の研究のスプリングボードとなろう。
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Causes of Carryover |
残った金額が少なく、旅費に充当できず、必要な備品も金額が不足しているために、より有効な使用のためにあえて残した。現時点においては、購入予定の図書があり、その一部に充当する予定である。
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Research Products
(7 results)