2020 Fiscal Year Research-status Report
古代ローマのアリメンタ制度(子弟養育制度)に関する研究
Project/Area Number |
20K01050
|
Research Institution | Beppu University |
Principal Investigator |
飯坂 晃治 別府大学, 文学部, 准教授 (30455604)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | イタリア / 都市 / エヴェルジェティズム / ラテン碑文 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度は,古代ローマのアリメンタ制度(子弟養育制度)に関する近年の研究動向の把握をおこなった。アリメンタ制度に関しては,1990年にG. Woolfが注目すべき論考を発表し,アリメンタ制度の受給者は貧困家庭の子弟ではなかったという点と,皇帝はアリメンタ制度で自身の「寛大さ」を誇示したのだという点を指摘した。以後の研究は,この受給者の問題と,アリメンタ制度の目的の問題を中心に論じることになる。 これらの論点のうち,受給者の問題に関しては,アリメンタ制度の受給者は経済的弱者であったという反論が出された。また目的の問題に関しては,トラヤヌス帝がアリメンタ制度をつうじて市民の「父」という自己イメージをアピールしたのだとする学説が出され,以後,アリメンタ制度は皇帝のイデオロギーの発露であると理解されるようになった。 アリメンタ制度に関する近年の研究は,次のような展開を見せている。まず受給者の問題に関しては,アリメンタ制度の支援を受けた子弟が市民権保持者であったことがあらためて強調され,アリメンタ制度を「慈善事業」とする見方に対して留保が示されている。他方,目的の問題に関しては,アリメンタ制度は人口増加策であり,とくに将来ローマ軍団の兵士となる男児の養育がその目的であった,という旧来的な学説がふたたび提出されている。 この目的に関する近年の議論はトラヤヌス帝に関する一連の史料に依拠しているが,アリメンタ制度の開始はネルウァ帝の治世にまでさかのぼるとする研究もある。またアリメンタ制度の目的は,上層中流市民にエヴェルジェティズムの実行を促すものであったと論じる研究もある。アリメンタ制度は,皇帝の意図から離れて,より広い視野から分析する必要がある。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
研究計画では当初,私的アリメンタに関する分析を予定していた。しかし,私的アリメンタに関しては,個々の史料に関して研究の進展がみられるものの,その意義に関する国内外の研究の進捗状況を把握できず,研究の方向性を定めることができなかった。そこで今年度は,皇帝による公的アリメンタの最新の研究動向の把握に努めることとした。 その結果,欧米では2010年代後半に新たな研究が出されていることを確認し,公的アリメンタに関する今後の研究の方向性について考察することができた。
|
Strategy for Future Research Activity |
まずは皇帝による公的アリメンタの近年の研究動向を整理し,今後の研究の方向性を示すこととする。次いで,私的アリメンタに関して史料を整理・分析し,その歴史的意義について考察する。こうした作業をうけて,公的アリメンタに関して,それが実施された目的を都市社会の変容の文脈で考察するとともに,公的アリメンタの実施にあたった帝国官僚の分析からその実施規模について考察し,皇帝権力がイタリア都市に大きな影響力を及ぼしていたことを示したい。
|
Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症の世界的拡大により,予定していたイタリアでの現地調査を実施できなかったため。
|
Research Products
(1 results)