2022 Fiscal Year Research-status Report
古代ローマのアリメンタ制度(子弟養育制度)に関する研究
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20K01050
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Research Institution | Beppu University |
Principal Investigator |
飯坂 晃治 別府大学, 文学部, 教授 (30455604)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 古代ローマ / イタリア / 都市 / 官僚制 / 救貧制度 / ラテン碑文 |
Outline of Annual Research Achievements |
2022年度は,まず,古代ローマの公的アリメンタ制度(子弟養育制度)について,皇帝政府によるイタリアの統治行政という観点からの研究を継続した。街道監督官(curator viarum)が街道の維持管理など本来の任務に加え,アリメンタ制度の管理にもあたっていたこと,そして,皇帝がアリメンタ制度をつうじて,寛大で慈悲深い市民の「父」というイメージを発信し,そうしたプロパガンダが,街道を基軸とした統治システムを前提としたものであったことは昨年度の研究でも指摘した。近年の研究はこのようにアリメンタ制度を皇帝のイデオロギーの発露と理解しているが,しかし他方で,アリメンタ制度は社会の下層の家族のみが受益者となるよう巧みに制度設計されており、そのためイデオロギーという点からの解釈だけでは不十分であるように思われる。 したがって,公的アリメンタ制度の目的に関する考察が重要となってくる。従来の研究では,アリメンタ制度の目的は子供たちの保護育成をとおしてイタリアの人口減少に歯止めをかけることにあったと考えられてきた。また,このアリメンタ基金から土地を担保に低利率で資金が貸与されたことから,農民に対する財政的な援助という目的があったとする見解も出されている。しかし,このようにアリメンタ制度に何らかの合理性や実利性を求めようとする見方は,1989年のBossuの研究により批判されている。その結果,1990年のWoolfの研究に代表されるように,上に述べたようなイデオロギーの発露という解釈がおこなわれるようになったのである。現時点で本研究は,アリメンタ制度の目的に関する新たな理解を呈示することはできていないが,少なくとも同制度が皇帝と都市の結びつきを強めたということは確認できている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
2022年度は,皇帝政府によるイタリアの統治行政という観点からのアリメンタ制度の研究を継続するとともに,公的アリメンタ制度の目的に関する考察もすすめた。また昨年度と同様に,公的アリメンタ制度が,それまでイタリア都市の維持・再生産を担っていたエリートの流出という都市社会の変容を背景に,サブエリートに都市社会への貢献を促す目的で実施されたのではないか,という仮説を立て,同制度の分析をおこなった。 北イタリアのウェレイアと南イタリアのリグレス・バエビアニから出土したアリメンタ碑文は,公的アリメンタ制度を分析するうえで最も重要な史料である。これらの碑文では,アリメンタ基金から貸付をうけた土地所有者の名前とその土地評価額が列挙されているのである。昨年度は,その土地所有者たちを氏名構成法の観点から分析し,両都市においてアリメンタ制度に参加した土地所有者はその都市出身の者よりも他地域の出身者が多いこと,そしてアリメンタ制度に出資した額を比較すると,前者が後者よりも積極的に同制度に参加していることを確認できた。しかし,こうした事実から,いかにして上に述べた仮説を検証することができるかという点で,本研究は進捗の遅れを見ている。その原因のひとつは,ウェレイアとリグレス・バエビアニの碑文からは土地所有者の身分や職業といった素性が見えにくいという点にあると思われる。この点に関しては,地方都市のサブエリートないしは「中間者層」に関するこれまでの研究を参照しながら分析に取り組む必要があると思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度は,本研究の最終年度にあたる。まずは公的アリメンタ制度に関する主要な史料であるウェレイア碑文とリグレス・バエビアニ碑文をあらためて精査し,基金創設者であるトラヤヌス帝のプロパガンダや,五賢帝時代のイタリアの統治行政,アリメンタ基金から貸与を受けて利子を支払った参加者,そしてアリメンタ基金から手当の給付を受けた子どもとその家族などに関する分析を早急に進め,公的アリメンタ制度の目的に関する新たな理解を提示する必要がある。 また,アリメンタ制度に関する近年の研究には,都市法などを参照しながら制度運用の実態に迫る研究が提出されている。アリメンタ制度とローマ法の関係を探るこうした一連の研究は,公的アリメンタ制度だけでなく,私的アリメンタ制度をも分析の対象にしている。本研究はそうした成果も取り入れながら,公的アリメンタ制度と私的アリメンタ制度の両方に関する研究にも取り組み,アリメンタ制度の全体像を探らなければならない。
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Causes of Carryover |
2022年度は,ようやくイタリアにおける現地調査をおこなうことができたが,2020年度および2021年度に現地調査をおこなうことができなかったため,その分の費用を使用することができていない。2023年度は本研究の最終年度にあたるため,イタリア地方都市や古代ローマのサブエリートに関する図書の購入を予定している。
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Research Products
(3 results)